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その1(PDF/1.2MB)
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変更後 · 1ページ乳 児 院
運営ハンドブック
厚生労働省
雇用均等・児童家庭局
家庭福祉課
その1(PDF/1.2MB)(2ページ)
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発刊にあたって
このたび、厚生労働省、社会的養護関係施設 5 種別協議会並びに各ハンドブック編
集委員会のご尽力のもとに、社会的養護関係施設種別(児童養護施設、乳児院、情緒障
害児短期治療施設、児童自立支援施設、母子生活支援施設)の『運営ハンドブック』を
発刊できますことを、心よりうれしく思います。
子どもと子育てをめぐる社会環境が大きく変化するなかで、虐待を受けた子どもな
ど保護者の適切な養育を受けられない子どもが増えており、そのような子どもたちを
社会全体で公的責任をもって保護し、健やかに育んでいくことが強く求められていま
す。
このため、社会保障審議会児童部会社会的養護専門委員会において、平成 23 年 7 月、
「社会的養護の課題と将来像」がとりまとめられ、施設の小規模化、地域化、本体施設
の機能強化等社会的養護のめざすべき方向性が示されています。社会的養護の充実は、
国民の理解を得るため、社会的養護を文字どおり「社会にひらく」こととセットで進め
られなければなりません。
このため、平成 24 年度からの社会的養護関係施設の自己評価並びに第三者評価の義
務化、平成 23 年度末の里親、ファミリーホームを含む社会的養護関係施設種別ごとの
運営指針の発出、施設長資格の明定と研修受講の義務化など、この間、社会的養護を
「社会にひらく」ことを進める諸改革が進められてきました。
平成 25 年 3 月には、第三者評価機関並びに評価調査者、施設関係者のための手引き
として『社会的養護関係施設における「自己評価」「第三者評価」の手引き』(全国社会
福祉協議会,平成 25 年 3 月)も発刊されました。
このハンドブックは、こうした流れの一環として、平成24 年3 月29 日付雇児発0329
第 1 号厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知「社会的養護施設運営指針及び里親及び
ファミリーホーム養育指針について」の別添 1 から 5 までの各施設運営指針の解説並び
に施設運営の手引きとなるように作成されました。また、第三者評価の「手引き」にお
ける各施設の説明を補完することも意図しています。
本書の監修を行った「社会的養護第三者評価等推進研究会」は、社会的養護の施設運
営指針及び第三者評価基準の策定検討に携わった施設運営指針等ワーキンググループ
の各座長に加え、学識者、経験と識見を有する評価調査者の参画を得て厚生労働省が設
置し、全国社会福祉協議会と連携しながら、社会的養護の自己評価並びに第三者評価の
推進に関する検討などを行ってきました。
ハンドブックは 5 施設種別ごとに作成されましたが、研究会では、それぞれの施設種
別ごとに設置された編集委員会の独自性を尊重しつつも、題名の統一、全体の構成、内
その1(PDF/1.2MB)(3ページ)
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容について一定の統一性を図るなどの機能を果たしてきました。特に、総説ともいうべ
き「社会的養護の基本理念と原理」については、その内容がほぼ共通するように執筆さ
れています。また、全体構成としては、総論から各論に移行しつつ解説する構成をとっ
ています。
ただ、5 施設種別の役割・機能や抱える事情はそれぞれに異なっており、実際の内容
は各施設種別の主たる利用目的に沿うものとなるよう、独自性を生かしたものとなって
います。各ハンドブックの特徴を簡潔に述べれば、以下のとおりです。
1.児童童養護施設運営ハンドブックは、運営指針の解説書という形式をとっています。
各論では、エピソードやコラム、写真を交えてわかりやすいものとし、一緒に考えて
いただく構成となっています。特に、若い施設職員や第三者評価機関、評価調査者等
に読んでいただくことをねらいとしています。
2.乳児院運営ハンドブックは、すでに全国乳児福祉協議会が作成している「新版乳児
院養育指針」と連動させつつ、事例を紹介しつつ指針の各論の解説を進めている点が
大きな特徴です。リスクマネジメントにページを割くなど、現代的な課題にも触れて
います。主として新任施設長・職員等を対象としており、養育指針と合わせて読んで
いただくことを意図しています。資料編も掲載されています。
3.情緒障害児短期治療施設運営ハンドブックは、今後、当該施設が増えることを見込
んで、新設施設向きに作成が行われています。運営指針に基づき、基本的で具体的な
情報を集めています。資料編は CD-ROM に収録し、適宜バージョンアップを考えてい
ます。なお、全国協議会として施設名称の変更を提言しており、「児童心理治療施設」
の名称を表題に取り込んでいます。
4.児童自立支援施設運営ハンドブックは、全国児童自立支援施設協議会がこれまで出
しているハンドブック等を参考にしつつ、運営指針にも基づきながら解説を進めてい
ます。新任施設長や新人職員が読んで分かるように平易な文章とし、第三者評価機関、
評価調査者等が施設の特徴を理解できる内容にしてあります。
5.母子生活支援施設運営ハンドブックは、運営指針の項目順に沿って解説という形で
記述されています。第三者評価基準の「評価の着眼点」にも対応させ、施設関係者の
みならず第三者評価機関や評価調査者にとっても役立つように配慮されています。ま
た、巻末にキーワードを掲載するなど使いやすさにも意を用いています。
このように、いずれも運営指針の内容を掘り下げるとともに、事例や詳細な解説等を
通じて、施設運営をできる限り可視化できるよう努めています。なお、本ハンドブック
の姉妹版として、平成 25 年 3 月に全国里親委託等推進委員会の編集によって発刊され
その1(PDF/1.2MB)(4ページ)
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た『里親・ファミリーホーム養育指針ハンドブック』もありますので、あわせてご一読
いただければ幸甚です。
本ハンドブックが社会的養護関係者や第三者評価機関並びに評価調査者、行政関係者
に幅広く活用されるのみならず、社会的養護を学ぶ学生、研究者をはじめとする幅広い
関係者、ひいては社会的養護に関心を抱く国民各層に幅広く読まれることを心より願っ
ています。そのことによって初めて社会的養護は社会に対してひらかれ、かつまた、社
会的養護の質の向上も図られていくのだと確信しています。
平成 26 年 3 月
社会的養護第三者評価等推進研究会
委員長 柏女 霊峰
その1(PDF/1.2MB)(5ページ)
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はじめに
<本ハンドブックの使用方法>
本ハンドブックは、「乳児院の新任施設長」を対象と想定し、乳児院の役割
や運営をするうえでの必要な基本知識、実践のノウハウ、関連する活動事例等
について、載せて説明しています。
また、このハンドブックは、全国乳児福祉協議会より発行しております『新
版 乳児院養育指針』による乳児院の養育の基本的な考え踏まえて作成してい
ます。
『乳児院におけるアセスメントガイド』による乳児院の情報把握、整理、支
援方針作成の進め方とも併せて、ご参照ください。
<本ハンドブック掲載の事例について>
本ハンドブックの事例については、乳児院関係者の情報などを参考にしつ
つ、架空の事例として作成したものを掲載しています。
その1(PDF/1.2MB)(6ページ)
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変更後 · 6ページ目 次
発刊にあたって ················································································· ⅰ
はじめに··························································································· ⅳ
第Ⅰ部 社会的養護の基本理念と原理···················································· 1
1.社会的養護の基本理念 ............................................... 1
2.社会的養護の原理 ................................................... 2
3.社会的養護の基盤づくり ............................................. 8
第Ⅱ部 乳児院の役割と理念 ...................................................................................................... 11
1.乳児院を取り巻く状況............................................................................................... 11
2.乳児院の役割と理念................................................................................................... 13
2 1 乳児院の役割と理念 ........................................................................................... 13
(1)乳幼児の生命を守り育む ........................................... 13
(2)乳児の緊急一時保護対応を含む一時保護(所)機能 ..................... 13
(3)保護者・家族への支援、地域(里親含む)への子育て支援 ............... 14
2 2 乳児院の課題と将来像 ....................................................................................... 14
(1)保護者・家族への支援、地域(里親含む)への子育て支援 ............... 14
(2)養育単位の小規模化 ............................................... 14
(3)乳児院の保護者支援機能、地域支援機能の充実 ....................... 15
3.乳児院の将来ビジョン............................................................................................... 16
3 1 乳児院に求められる機能.................................................................................... 16
(1)必須の機能と選択的な機能 ......................................... 16
(2)展開過程に即したアセスメントの充実 ............................... 17
4.リスクマネジメント................................................................................................... 19
4 1 リスクマネジメントの基本的理解 .................................................................... 19
(1)リスクマネジメントとは ........................................... 19
(2)リスクマネジメントの必要性 ....................................... 19
4 2 リスクマネジメントの取り組み ........................................................................ 20
(1)リスクマネジメントの導入 ......................................... 20
(2)福祉施設の「リスクマネジメント」8 つのポイント .................... 21
4 3 リスクマネジメントの具体的な理解................................................................. 23
その1(PDF/1.2MB)(7ページ)
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変更後 · 7ページ(1)ヒヤリハット報告書と事故報告書 ................................... 23
4 4 リスクマネジメントの実践、4つのプロセス ................................................. 26
(1)リスクの把握 ..................................................... 26
(2)リスクの評価・分析 ............................................... 26
(3)リスクの改善・対処 ............................................... 27
(4)リスクの再評価 ................................................... 27
第Ⅲ部 乳児院における支援 ~事例に学ぶ~ .................................................................28
1.一時保護における支援............................................................................................... 28
(1)乳児院の一時保護 ................................................. 28
(2)子どもの安全を確保すること ....................................... 28
(3)ケースのアセスメント ............................................. 29
(4)課題解決と育ちを支えるための支援 ................................. 31
(5)事例に学ぶ1 ..................................................... 32
① 入所同意が得られない一時保護 .................................... 32
② 長期化する一時保護 .............................................. 35
③ 短期入所利用を繰り返す一時保護 .................................. 37
④ 緊急一時保護1 ~病院から緊急一時保護~.......................... 40
⑤ 緊急一時保護2 .................................................. 43
⑥ 入所打診を経て入所する場合 ...................................... 46
2.乳児院での生活(入所中のケアについて)............................................................. 50
2 1 乳児院の一日 ...................................................................................................... 50
(1)願いを込めた一日一日 ............................................. 50
(2)一日の流れ(日課) ............................................... 50
2 2 乳児院で働く職員............................................................................................... 52
(1)乳児院で働く職員 ................................................. 52
(2)チームアプローチと職員の役割 ..................................... 52
(3)職員配置 ......................................................... 53
2 3 乳児院の養育 ...................................................................................................... 53
(1)乳児院の養育 ..................................................... 53
(2)新生児期の養育 ................................................... 54
(3)病虚弱児・障害児の養育 ........................................... 55
(4)被虐待児の養育 ................................................... 56
その1(PDF/1.2MB)(8ページ)
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変更後 · 8ページ2-4 事例に学ぶ2 ...................................................................................................... 58
① 新生児の養育 .................................................... 58
② 被虐待児の養育 .................................................. 61
③ 病虚弱児の養育 .................................................. 66
④ 重度の病虚弱児の養育 ............................................ 69
⑤ 長期入院児の事例 ................................................ 72
⑥ 小規模グループケアの養育№1 .................................... 75
⑦ 小規模グループケアの養育№2 .................................... 80
⑧ 乳児院入所中の家族支援 .......................................... 87
3.家族支援・アフターケア ........................................................................................... 90
(1)家族支援について ................................................. 90
(2)退所前の支援とリスクアセスメントについて ......................... 90
(3)アフターケア・関係機関との連携 ................................... 92
(4)事例に学ぶ3 ..................................................... 94
① 家族支援の実際1 ................................................ 94
② 家族支援の実際2 ................................................ 98
4.里親支援....................................................................................................................101
(1)支援における乳児院の利点 ........................................ 101
(2)里親との交流 .................................................... 102
(3)里親委託の際に必要なこと ........................................ 103
(4)事例に学ぶ4 .................................................... 108
① 里親支援の実際 ................................................. 108
5.その他施設への移行................................................................................................. 113
(1)施設移行にいたるまでに(養育のつなぎをするために準備すること)... 113
(2)ならし保育の実施(一貫性のある養育を実施するために) ............ 114
(3)アフターケア(ライフサイクルを見通した支援のなかで) ............ 115
(4)事例に学ぶ5 .................................................... 117
① 児童養護施設への養育のつなぎ ................................... 117
6.乳児院における地域支援 .........................................................................................121
(1)乳児院の機能として .............................................. 121
(2)地域支援の具体的な展開として .................................... 122
(3)乳児院の地域支援・連携について ................................... 123
その1(PDF/1.2MB)(9ページ)
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変更後 · 9ページ(4)事例に学ぶ6 .................................................... 124
① 地域支援事業の実際 ............................................. 124
第Ⅳ部 乳児院における人材育成 ........................................................................................ 127
1.人材育成の大切さと「乳児院の研修体系」...........................................................127
2.職員の専門性の明確化とレベルごとの学ぶべき内容の整理 ................................127
3.人材育成の柱となる OJT ........................................................................................128
4.OJT の柱:スーパービジョン ................................................................................129
5.OJT の柱:ケース会議............................................................................................130
6.ポイント制と振り返りノート..................................................................................131
≪ハンドブック全体を通しての注釈≫ ..........................................................................132
≪引用・参考文献≫ ........................................................................................................135
≪資料≫ ...........................................................................................................................135
≪参考ホームページ≫ ....................................................................................................135
≪掲載資料≫....................................................................................................................136
編集委員会委員名簿 ........................................................................................................173
その1(PDF/1.2MB)(10ページ)
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変更後 · 10ページ第Ⅰ部 社会的養護の基本理念と原理
社会的養護の基本理念と原理は、社会的養護の 5 種別の児童福祉施設(以下、「施設」
という)(児童養護施設、乳児院、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設、母子
生活支援施設)及び里親等に向けて策定された6つの指針それぞれの総論の第 2 章にお
いて、同じ内容で記載されています。このことは、それぞれの施設や里親等で形態や役
割と特性の違いがあることを前提にしつつも、社会的養護が共通の考え方に基づくこと
を示しています。社会的養護の 5 施設及び里親等は、以下に述べる 2 つの「基本理念」
と 6 つの「原理」のもと、連携して子どもたちを育みます。
1.社会的養護の基本理念
社会的養護とは、親のない子どもや親に監護させることが適当でない子どもを公的責
任で社会的に養育し保護するとともに、養育に困難を抱える家庭への支援を行うことで
す。
指針には、「子どもの最善の利益のために」と「社会全体で子どもを育む」の 2 つの
基本理念が掲げられています。
① 子どもの最善の利益のために
1947 年に公布された児童福祉法の第 1 条第 2 項には、「すべて児童は、ひとしくその
生活を保障され、愛護されなければならない。」と規定されています。
また、1951 年に制定された児童憲章には、「児童は、人として尊ばれる。児童は、社会
の一員として重んぜられる。児童は、良い環境の中で育てられる。」とうたわれていま
す。
そして、1994 年に日本が批准した「児童の権利に関する条約」第 3 条には、「児童に
関するすべての措置をとるに当たっては、(中略)児童の最善の利益が主として考慮さ
れるものとする。」と規定されています。
児童福祉法や児童憲章に記されている「生活を保障されること」「愛護されること」「人
として尊ばれ、社会の一員として重んじられること」「良い環境の中で育てられること」
や、児童の権利に関する条約の 4 つの柱である「生きる権利」「守られる権利」「参加す
る権利」「育つ権利」は、子どもの基本的な権利として守らなければならないことを示
しているものです。
社会的養護は子どもの権利擁護を図るための仕組みです。子どもの権利擁護を図り、
更に子どもの権利を保障していくことを一言で表したものが、「子どもの最善の利益の
その1(PDF/1.2MB)(11ページ)
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変更後 · 11ページために」であり、これを社会的養護の1つめの基本理念としています。児童の権利に関
する条約が批准されて以来、一般的によく聞かれるようになった言葉ですが、社会的養
護にかかわるすべての人たちは、子どもに寄り添い、子どもの思いにこころを寄せ、「子
どもの最善の利益のために」何をすべきかを第一に考えなければなりません。
② すべての子どもを社会全体で育む
児童福祉法第 1 条第 1 項に、「すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且
つ、育成されるよう努めなければならない。」と規定されています。
同法第 2 条には、「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身とも
に健やかに育成する責任を負う。」と規定されています。
そして、児童の権利に関する条約第 20 条には、「一時的若しくは恒久的にその家庭環
境を奪われた児童又は児童自身の最善の利益にかんがみその家庭環境にとどまること
が認められない児童は、国が与える特別の保護及び援助を受ける権利を有する。」と規
定されています。
子どもは、権利の主体として社会的養護を受ける権利を有しています。保護者は、子
どもの健やかな育成に努める責任がありますが、国及び地方公共団体も保護者とともに
その責任を負っているのです。
これらのことから、社会的養護は、「すべての子どもを社会全体で育む」を2つめの
基本理念としています。
2.社会的養護の原理
「子どもの最善の利益のために」「すべての子どもを社会全体で育む」という 2 つの理
念に基づき、社会的養護には 6 つの原理が定められています。
① 家庭的養護と個別化
すべての子どもは、適切な養育環境で、安心して自分をゆだねられる養育者によって、
一人一人の個別的な状況が十分に考慮されながら養育されるべきです。一人一人の子ど
もが愛され大切にされていると感じることができ、子どもの育ちが守られ、将来に希望
が持てる生活の保障が必要です。これらのことは、多くの子どもが育っている家庭での
「あたりまえの生活」の中において行われています。
子どもにとって「あたりまえの生活」とは、普段私たちが何気なく行っている家庭で
の生活のことです。食事の心配をしないで過ごせ、ゆっくり休める場があることから始
まり、不安や辛いことがあれば話を聞いて慰めてもらえる、頑張ってできたことは褒め
てもらえるような生活です。
その1(PDF/1.2MB)(12ページ)
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変更後 · 12ページ施設で育つ子どもたちには、この普通に家庭で行われている「あたりまえの生活」が
保障されなければなりません。「あたりまえの生活」は、子どもにとって「生活を保障
され、愛護され、人として尊ばれる生活」です。そのために、養育を担う施設長、職員
(以下「職員」という)には、子どもの状況に応じて、個別的な養育とかかわりを実践
していくことが求められます。
「あたりまえの生活」は、意識しないまま行われているものですから、職員は「昔か
らこのようにしてきたのだからこのままでよい」と思い込んでしまう場合があります。
しかし、「たとえば、自分の子どもやきょうだいが、この施設に入ったら・・・」と考
えたり、自分の子どものころの生活を振り返ったりして「あたりまえの生活とは何か」
を具体的に意識していくことが大切です。そして、子ども達の生活を深慮してみること
が必要です。
そのうえで、「あたりまえの生活」をより保障するためには、子どもたちの暮らしが
地域から孤立することのないように配慮するとともに、職員が一人一人の子どもとでき
るかぎり向き合ってかかわり、生活していくことが必要です。そのためには、子どもの
個別のニーズに合わせやすい環境として、地域の中での小規模グループケア等の家庭的
養護が有効です。
このような家庭的養護を目指していく取組を、「家庭的養護の推進」と表しています。
児童養護施設や乳児院における「家庭的養護の推進」は、それぞれの施設の特性により
違いはありますが、ともに家庭的養護が重要な課題となっています。情緒障害児短期治
療施設や児童自立支援施設においては、より専門的な支援に基づいた生活が営まれます
が、退所後に地域で生活を送ることを見据えた支援を考えていかなければなりません。
また、母親と子が一緒に暮らす母子生活支援施設においては、ひとつの家族として関係
が安定し、家庭的な養育がなされるよう母親と子どもの支援が大切です。
里親やファミリーホームのような家庭の中で子どもを預かり、養育する形態を家庭養
護と言います。この家庭養護と施設の小規模グループケア等の家庭的養護を総称して、
「家庭的養護」と呼びます。
一人一人の子どもを丁寧にきめ細かく育むこと、子どもを権利の主体として個別のア
セスメントに基づいたニーズに合わせた生活を組み立てることを「個別化」と言います。
家庭的養護を推進していく際には、「個別化」がしっかりと取り組まれ、個々の子ども
の自立を支援していくための計画を立てていくことが大切です。
子どもを集団管理的な視点で枠(環境)におくことは、「個別化」ではありません。
建物構造等による小規模化が一挙にできなくとも、子ども一人一人に固有のスペース、
固有の持ち物をできる限り保障していくという個別化の観点を取り入れることはとて
も重要であり、「家庭的養護の推進」には、こうした創意、工夫をいかした養育の実践
も含まれることに留意する必要があります。
その1(PDF/1.2MB)(13ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 13ページ② 発達の保障と自立支援
子ども期には成長に応じてそれぞれ発達段階があり、その育ちの過程ごとに発達の課
題があります。また、子ども期は、その後の成人期の人生に向けた準備の期間でもあり
ます。施設の職員は、子どもたちの課題を理解し、その上で、子どもたちが自分たちの
将来を作り出す生きる力の基礎となるよう、子ども期の健全な心身の発達の保障を目指
します。
特に、人生の基礎となる段階が乳幼児期です。お腹がすいたり、オムツが濡れたりな
ど不快な時に泣いて、世話をしてもらうことで、子どもは自分のことが大切にされ愛さ
れていると感じるようになります。そして、その養育者に依存することができ、安心し
て過ごすことができるようになり、人に対する信頼をいだくことができるようになりま
す。人生の基礎となる乳幼児期に、このような特定の人との愛着関係(不安な時にそば
に行けば安心感を与えてくれると思える人との関係)や基本的な信頼関係を形成するこ
とは非常に重要なことです。
子どもは、愛着関係や基本的な信頼関係を基盤にして、他者の存在を受け入れ、人間
関係を作っていくことができるようになります。自立に向けた生きる力の獲得も、健や
かな身体的、精神的及び社会的発達も、こうした乳幼児期の基盤があって育まれていき
ます。子どもの自立支援とは、乳幼児期からすでに始まっているということです。
児童期でも乳幼児期と同様に、愛着関係や信頼関係は重要になります。そのことを前
提として、職員は、子ども自身が成長に合わせた水準の自立や自己実現ができるように
支援を行います。生活の中で、可能な限り子どもの主体的な活動を大切にするとともに、
様々な生活体験などを通して、子どもが自立した社会生活に必要な基礎的な生きる力を
形成できるように支援することが必要です。
児童期の学習の支援は、自立や自己実現と密接に関係します。子どもが自信を持ち、
達成感を持てるように丁寧に根気よく支援していくことが大切です。
思春期を経て青年期になると、子どもは自分なりに自分の人生を見直す段階を迎えま
す。自分の存在を問い直すため、不安、悩み、ときに大きな混乱が生じる場合もありま
す。思春期の子どもが退所後も安心して生活していけるように、それまで以上に慎重に
支援していくことが大切になります。18 歳以降も退所後の自立のために施設における支
援が必要と判断された子どもについては、措置延長をしていくことや、退所した子ども
についても丁寧なアフターケアを行うことで、自立する力をつけるための支援を継続し
ていくことが必要です。
その1(PDF/1.2MB)(14ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 14ページ③ 回復を目指した支援
近年、施設で育つ子どもたちの多くは、虐待体験などにより心にいたみをかかえた子
どもが増えています。養育を担う職員は、虐待や不適切な養育が子どもにもたらした状
況と課題をとらえ、みたて、回復をめざした専門的ケアや心理的ケアなどの治療的な支
援を行うことが必要です。
虐待を受けた子どもは身体的な暴力によって生じるいたみだけでなく、情緒や行動、
自己認知・対人認知、性格形成など、広範囲で深刻なダメージを受けています。子ども
は、本来「大切にされる体験」によって得られる「安心感」や「自信」を享受していく
ものです。しかし、虐待を受けることにより喪失してしまったこころの回復には、職員
などの大人が、子どもにとって自分を守ってくれる存在になっていくことが求められま
す。
また、虐待や不適切な養育環境から子どもたちを守るために、親と子の分離が行われ
ています。しかし、この分離により子どもは、家族や親族、友だち、近所の住人、保育
士や教師など地域で慣れ親しんだ人々との別れを経験することになります。子どもは、
虐待による心のいたみとともに養育環境からの分離という不条理で望みもしない経験
が重なります。そのため、「深刻な生きにくさ」のなかで施設での生活に入ってくるこ
とになります。子どもにとって、施設を「安全で、安心感を持てる居場所」とし、「大
切にされる体験」を提供し、人への信頼感や自己肯定感(自尊心)を取り戻すための支
援を行う役割を、職員は担っていく必要があります。
虐待体験は、子どもに様々な影響を及ぼします。たとえば、ささいなことで激しく怒
り出したり、暴力によって問題解決を図る傾向が強まったりします。困っているのは子
ども自身であると考えることが大切です。その要因は何なのかを考えてかかわり、子ど
もに安全で安心できる環境を提供し、その日常生活の積み重ねの中で、子ども自身が潜
在的に持つ回復力をゆっくりと引き出し、虐待体験による影響を修復していく治療的な
支援が大切です。
子どもは本来、家庭において親に育てられることが望ましいものです。それは親の存
在が子どもにとってはかけがえのない存在であるからです。したがって、子どもを虐待
してしまった保護者(親)(以下、「保護者」という)に対しては、施設が児童相談所(以
下、「児相」)とともに、虐待の再発を防ぐための支援を行い、できるだけ子どもが家庭
復帰できるようにすることが大切です。このためには、子どもの支援とともに保護者の
養育機能を高める支援が必要となります。しかし、できる限りの支援を行っても家庭復
帰が望めない場合には、施設や里親等で育てられることになります。その際に大事なこ
とは、ときに否定的になりがちな子どものこころを、愛され受け入れられていた頃の親
と子の関係や思い出、楽しかったころの子どもの心の中の親への思いや家族観等を過去
から今へ紡ぎながら整理していく支援が重要となります。
その1(PDF/1.2MB)(15ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 15ページ④ 家族との連携・協働
親がいない子どもや親がいても養育が困難であったり、親が不適切な養育を行った
り、あるいは虐待をしてしまうなど、「安心して自分をゆだねられる親」がいない子ど
もがいます。また一方で、子どもを適切に養育することができず、悩みを抱えている親
もいます。さらに、配偶者による暴力(DV)などによって「適切な養育環境」といえ
ない、困難な状況におかれている母親と子がいます。
社会的養護の使命と役割は、子どもと親の問題状況の解決や緩和をめざして、子ども
と親の両方を支援していくことです。
親がいない子どもの場合やどうしても親が養育することが困難な場合、里親、ファミ
リーホームといった家庭養護や、それが困難な場合には、施設が「親に代わって」子ど
もの発達や養育を保障していくことになります。その際に、職員などは親を否定するよ
うな言動をとってはならないでしょう。
親が養育に参加できる場合、支援において大切なことは、親との「連携」「協働」で
あり、施設が「保護者とともに」子どもを支援するという姿勢です。保護者の主体性を
大切にして、施設が「保護者を支えながら」ともに養育する姿勢が必要です。
現在、児童養護施設、乳児院、情緒障害児短期治療施設及び児童自立支援施設におい
ては、家庭支援専門相談員の配置が義務化されています。家族との連携や協働を行って
いくうえで、この家庭支援専門相談員や心理療法担当職員等の専門職員の役割が、今後
ますます重要になります。
⑤ 継続的支援と連携アプローチ
施設における子どもへの支援は、その始まりからアフターケアまで継続しており、で
きる限り特定の養育者による一貫性のある養育が望まれます。子どもが施設に入所した
後、担当の職員が次々と変わり、その度に養育や支援の方針が変わったり、職員が変わ
る際に子どもへきめ細やかな説明(職員の思いやこれからのこと)がなされなければ、
子どもの不信につながります。
とはいえ、子どもの入所が長期間になった場合、その子どもを入所から退所まで同じ
職員が担当することは困難です。措置変更により子どもが施設を移る場合もあります。
そうした場合、子どもたちに対して、それぞれの施設、里親、児相等の様々な社会的養
護の担い手が、それぞれの専門性を発揮しながら、より連携しあって、一人ひとりの子
どもの社会的自立や親子の支援を目指していく社会的養護の連携アプローチと、ネット
ワークが必要となります。
連携アプローチには、たとえば、児童養護施設に入所中の子どもが情緒障害児短期治
療施設へ通い、心理的ケアを受けるなどの同時に複数の社会的養護の担い手が連携して
その1(PDF/1.2MB)(16ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 16ページ支援に取り組むアプローチがあります。また、養育者の変更や措置の変更などが生じた
際に一貫性のある養育を保障するため、より丁寧な引き継ぎを行うアプローチがありま
す。これらの連携アプローチに児相等も加わり、社会的養護の担い手それぞれの機能を
有効に補い合い、市町村とも連携し、重層的な連携を強化することによって、養育と支
援の一貫性・継続性・連続性というトータルなプロセスを確保していきます。社会的養
護の下にいる子どもたちの養育は、地域の子育て支援サービスや子ども育成サービスを
上手に利用することが子どもの最善の利益につながりますし、社会的養護を地域にひら
いていくことにもつながることを忘れてはならないでしょう。
社会的養護における養育は、「人とのかかわりをもとにした営み」です。子どもが歩
んできた過去と現在、そして将来をより良くつなぐために、一人一人の子どもに用意さ
れる社会的養護の過程は、健やかな発達と成長への「つながりのある道すじ」として、
子ども自身にも理解されるようなかかわりと支援であることが必要です。そのために
は、子どもに関わった養育者との思い出がその子どもの心の中に残り、「自分は愛され、
見守られ、期待されてきた」という気持ちを育めるように支援していくことが大切です。
また、子どもの記録やその引き継ぎ、そのつながりを子ども自身が理解できるツール
として、社会的養護関係者で構成された『社会的養護における「育ち」「育て」を考え
る研究会』で検討が重ねられ、平成 23 年には「育てノート」、また平成 24 年には「育
ちアルバム」が作成されています。
「育てノート」は、生まれたときの様子から始まり、その成長ぶりを、エピソードな
ども交えて記入し、養育者が引き継いでいくというものです。学校の宿題で、自分の名
前の由来を聞いてくるように、というようなことがあった際に、施設で暮らす子どもの
場合には、職員に聞いてもわからないといったケースが少なくありません。そのような
空白ができるだけないようにするのが「育てノート」です。
「育ちアルバム」は、子どもと職員が一緒に、写真を選びながら、コメントや思い出
を書き込み、子どもが自分の記録として持っていきます。職員の思いや友だちのコメン
トなども入れるため、自分が大事にされているという気持ちを育むことにも繋がりま
す。
⑥ ライフサイクルを見通した支援
平成16年児童福祉法改正により、入所中の支援だけでなく、退所後の相談等の支援(ア
フターケア)も施設の役割であることが規定されています。施設を退所し家庭復帰した
子どもや施設から里親へ措置変更となった子どもへの継続的な支援、また、社会に出て
自立していく子どもへの支援が十分でない場合、施設で健やかに成長した子どもであっ
ても孤立してしまい、解決できる課題も放置され、結果として苦境に陥ってしまうこと
その1(PDF/1.2MB)(17ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 17ページもあります。このようなことが無いようにするため、施設におけるアフターケアの取組
が重要です。
アフターケアを行うためには、入所中から子どもの退所後の暮らしを見通した支援を
行うことが大切です。子どもたちが退所した後も長くかかわりを持ち続けられることが
退所後の支援の基盤になりますが、そのために、施設は子どもたちが帰属意識を持つこ
とのできる存在となっていくことが大切です。
そして、育てられる側であった子どもたちはやがて親となり、子どもを育てる側にな
っていきます。子から親へと世代をつないで繰り返されていく子育てのサイクルを考慮
に入れた支援を行うことが必要です。
虐待を経験した子どもが親となった時に虐待をしてしまう、あるいは、貧困家庭に育
った子どもが大人になった時に貧困状態に陥るなどの世代間連鎖という社会的な問題
が提起されて久しい状況です。
虐待の連鎖は、いろいろな条件が重なったときに起こりやすく、それらは、「経済的
余裕がない」「身近に相談できる相手がいない」「育児不安」などを背景にしています。
また、こうした状況は一般の子育て世帯でも起こりうることです。
施設は、これらのことを想定して支援を行う必要があります。
たとえ、貧しい家庭に育ったとしても、成長過程で生きる力を培っていくよう支えて
いくことが必要です。さらに、貧困に陥らないための考え方や行動方法等のスキルを子
どもに身につけるよう支援することが必要です。そういったスキルを学ぶには、子ども
の育った家庭における経験とは別の文化や行動パターンに触れる経験をすることが有
効です。施設は、そのような視点に立ち、そのような観点から外部との接点がもてる子
どもの養育環境を整え、提供することが大切です。
3.社会的養護の基盤づくり
社会的養護は、かつては親のない子どもや親が養育できない子どもを中心とした施策
でした。近年、虐待をうけた子ども、DV被害の母と子などが増え、その役割・機能は変
化してきています。
これに対応して、児童福祉法をはじめとする法令の改正などが行われ、社会的養護の
充実が図られてきています。平成23年度末には施設種別ごとの運営指針が通知され、平
成24年度より人員配置基準の引き上げ、第三者評価の義務化、里親支援専門相談員の配
置等が実施されました。しかし、抜本的な改革にはいたっていません。
これからの社会的養護は、一人一人の子どもをきめ細かく育み、親子を総合的に支援
していけるような社会的な資源として、ハード・ソフトともに変革していくことが必要
です。
その1(PDF/1.2MB)(18ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 18ページ地域の中で養育者の家庭に子どもを迎え入れて養育を行う家庭養護(里親・ファミリ
ーホーム)を優先し、児童養護施設、乳児院等の施設養護が家庭養護を支援し、かつ、
施設自体もできる限り小規模で家庭的な養育環境(小規模グループケア、グループホー
ム)の形態に変えていく家庭的養護が進められています。
里親・ファミリーホームへの委託の推進のために、「全国里親委託等推進委員会」に
おいて、平成24年度に里親・ファミリーホーム養育指針ハンドブックや里親等委託率ア
ップの取組報告書が作成されました。
施設の家庭的養護の推進のために、平成24年11月に「児童養護施設等の小規模化及び
家庭的養護の推進について」(厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知)が通知されま
した。これに基づき、施設は「家庭的養護推進計画」を、都道府県は「都道府県推進計
画」を立て、施設の小規模化及び家庭的養護を進めていきます。子ども・子育て支援制
度の一環として策定される都道府県子ども・子育て支援事業支援計画には、家庭的養護
推進計画をはじめとして、社会的養護のもとにいる子どもたちに対する専門的ケアの充
実や自立支援などの計画が盛り込まれることとされています。
家庭的養護が推進され、施設においてケア単位の小規模化が行われると、職員一人ひ
とりが多様な役割を担う必要が生じ、これまで以上に職員個人の力量が問われます。家
庭的養護とは、子どもとの人間関係、かかわりが濃密となります。子どもとよりかかわ
れる分、やりがいもありますが、見えていなかった課題、見過してはならない課題、ま
たそれらによりかかわりの難しさを感じ、職員の心労が多くなる場合があります。施設
(施設長)は、こういった職員への支援体制や人材の育成体制の充実に努めることが必
要です。
さらに、虐待体験のある子どもや発達障害等のある子どもに対応できる養育技術の向
上を図るため、施設における研修体系の充実や工夫が必要となります。アセスメント機
能の強化、自立支援計画の積極的活用、適切な記録方法、施設間での連携の強化等、取
り組むべき課題は多様です。
そして、施設のある地域には里親やファミリーホームもあり、また、何らかの支援が
ない場合に養育が困難に陥ってしまう可能性のある子育て家庭があります。施設で育っ
た後に家庭復帰した子どもたちや、家庭復帰せずに自立して社会に出た子どもたちも暮
らしています。施設は、このような地域の里親等の支援や養育に困難がある家庭への子
育て支援、社会的養護で育った人への自立支援やアフターケアなども行うことが期待さ
れます。同時に施設には、これまで培ってきた養育や支援に対しての専門的な知識や技
術に基づき、専門的な地域支援の機能を強化し、総合的なソーシャルワーク機能の充実
を図っていくことを期待されています。
その1(PDF/1.2MB)(19ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 19ページ今後、養育の形態の変革を進めるとともに施設における養育内容・体制の見直しや強
化を図り、ケアワークとソーシャルワークを適切に組み合わせ、家庭を総合的に支援す
る仕組みづくりが必要となっていきます。
社会的養護関係施設の役割は、ますます大きくなっていきます。施設は、専門的機能
の充実を図り、地域の中での社会的養護の拠点となっていくことが求められています。
それに伴って、新しい職員の確保、増員、育成、定着が重要な課題となっていきます。
そのために施設は、子どもの育つ場所であると同時に、職員の育つ場所としていくこと
が大切です。
社会的養護関係施設に加え、国、地方自治体、地域、児相や、里親・ファミリーホー
ム、その他の関係機関が連携して一体感をもって社会的養護の基盤整備を進めていき、
「子どもの最善の利益のために」、「すべての子どもを社会全体で育む」社会の実現に
向けて一歩でも前進していくことがもっとも大切なことだといえるでしょう。
その1(PDF/1.2MB)(20ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 20ページ第Ⅱ部 乳児院の役割と理念
1.乳児院を取り巻く状況
2013 年(平成 25 年)3 月 29 日に施設運営指針が発出されました。運営指針は、子ど
ものより良く生きることを保障するものであり、社会的養護の様々な担い手が連携し適
切な支援を行っていくことを目的としています。また、前述のように①子どもの最善の
利益のため②すべての子どもを社会全体で育むことを社会的養護の基本理念としまし
た。
今、わが国においては、子どもを生み育てにくい社会が急速に進行していると言えま
す。もともと子育ては親族や地域社会による互助によって支えられてきました。しかし、
社会が豊かで便利になった半面、核家族化などで親の負担と責任が重くなった親族や地
域におけるお互いのつながりや助け合いを失い、その結果として少子化や子ども虐待な
ど、様々な社会問題を生じさせるようになりました。そして、子どもが育つことや子ど
もを生み育てるといういとなみを社会全体で支える制度へ展開されています。2011 年
(平成 23 年)7 月子ども・子育て新システム検討会議が開催され、「子ども・子育て新シ
ステムに関する中間とりまとめ」が行われました。その後、2012 年(平成 24 年)8 月
10 日、子ども・子育て関連 3 法案が衆議院にて可決、成立しました。子どもの育ち・子
育て家庭を社会全体で支えるため、市町村(基礎自治体)が制度を実施し、国・都道府
県等が制度の実施を重層的に支える仕組みを構築することになります。
また、国際的な動きもあります。2009 年(平成 21 年)11 月 20 日、子どもの権利条
約 20 周年を祝い、第 64 回国連総会で「児童の代替的養護に関する指針」(以下、指針)
が採択されました。この指針では、親と暮らせない子どもや、その危険にさらされてい
る世界中の子どもとその家族のために、167 項目に及ぶ具体的な指針が出されました。
日本の大規模型の施設中心の社会的養護に対し、児童の権利条約およびそれに基づく 2
回にわたる子どもの権利委員会の勧告に加え、「指針」の採択と、それを「考慮して」
施策推進をすることを求めた第 3 回子どもの権利委員会の勧告が出されました。この指
針では、施設養護と家庭養護の関係に踏み込み、「3 歳未満の児童の代替的養護は家庭を
基本とした環境で提供されるべきである」と記述されています。これは乳児院のあり方
も大きく揺さぶるものでもありました。
しかし、社会的養護の入所児童数が、全児童人口の 2%であることを考慮すると日本
における子どもの状態像は重たく、その関わりも困難を極めていくと推察されます。乳
児院は、乳児の福祉を図る社会的養護施策の一つとして、「児童福祉法」(昭 22 法)に
位置づけられて以降 70 年、それぞれの時代状況に合わせ、社会的な貢献をしてきまし
た。大きな変革が求められているとき、外圧としての変革に対応するのではなく、主体
その1(PDF/1.2MB)(21ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 21ページ的変革に立ち向かうことは、乳児院の個々の現場においても、全国乳児福祉協議会(以
下、「全乳協」)という組織においても意義のあることと考えます。
乳児院運営指針(抜粋)
1.目的
・この「運営指針」は、乳児院における養育・支援の内容と運営に関する指針を定
めるものである。社会的養護を担う乳児院における運営の理念や方法、手順な
どを社会に開示し、質の確保と向上に資するとともに、また、説明責任を果た
すことにもつながるものである。
・この指針は、乳児院で生活する子どもたちがよりよく生きること(well-being)
を保障するものでなければならない。また、社会的養護には、社会や国民の理
解と支援が不可欠であるため、乳児院を社会に開かれたものとし、地域や社会
との連携を深めていく努力が必要である。さらに、そこに暮らす子どもたちに
とって必要な生活を保障する取組を創出していくとともに、乳児院が持ってい
る機能を地域に還元していく展開が求められる。
・家庭や地域における養育機能の低下が指摘されている今日、社会的養護のあり
方には、養育のモデルを示せるような水準が求められている。子どもは子ども
として人格が尊重され、子ども期をより良く生きることが大切であり、また、
子ども期における精神的・情緒的な安定と豊かな生活体験は、発達の基礎とな
ると同時に、その後の成人期の人生に向けた準備でもある。
・この指針は、こうした考え方に立って、社会的養護の様々な担い手との連携の
下で、社会的養護を必要とする子どもたちへの適切な支援を実現していくこと
を目的とする。
その1(PDF/1.2MB)(22ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 22ページ2.乳児院の役割と理念
乳児院は、児童福祉法 第 37 条で「乳児(保健上、安定した生活環境の確保その他の
理由により特に必要のある場合には、幼児を含む)を入院させて、これを養育し、併せ
て退院した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設である」と規定さ
れています。また、第 48 条の 2 で、「地域の住民に対して、児童の養育に関する相談
に応じ、助言を行うよう努める役割も持つ」と地域の子育て支援の役割も求められてい
ます。
2011 年(平成 23 年)7 月に厚生労働省でとりまとめられた「社会的養護の課題と将
来像」において乳児院の役割、課題と将来像は以下のように示されています。
2 1 乳児院の役割と理念
(1)乳幼児の生命を守り育む
乳児院は、言葉で意思表示できず一人では生きていくこと、生活することができない
乳幼児の生命を守り養育するところです。乳幼児は生理的脆弱で、心身の発育・発達が
著しく、一人ひとりの状況を見極めた適切な養育を必要とします。乳児院における養育
は、入所期間だけでなく「生涯」にわたる人間形成の基礎を培うという長きにわたる視
点を持って行われます。乳児院の使命は、子どもに「大人に守られ、大切にされ、安心
して生活できる環境を提供する」ことであり、「信頼に足る大人がいることを示す」こ
とです。
また、乳児院に入所する子どもたちは健康な赤ちゃんのみではなく、虐待等で傷つい
た子ども、障害を抱える子どもも多くいます。乳児院は、乳幼児の基本的な養育機能に
加え、被虐待児・病虚弱児・障害児などに対応できる専門的養育機能も持っています。
乳児院の在所期間は、厚生労働省による平成 24 年度の調査では、半数の 50.7%が 1
年未満の短期で、1か月未満が 14.4%、6 か月未満では 35.9%となっています。短期の
利用は、子育て支援の役割であり、長期の在所では、乳幼児の養育とともに、保護者支
援、退所後のアフターケアを含む親子再統合支援の役割が重要となる二分化の特徴があ
ります。
(2)乳児の緊急一時保護対応を含む一時保護(所)機能
本来、児童福祉施設への入所は、児童相談所(以下、「児相」)の一時保護所での「行
動観察」「医学的診断」「心理的診断」「社会的診断」等のアセスメントを経て入所の有
無を判定会議で検討したうえで行われます。しかし、児相の一時保護所は、乳児への対
その1(PDF/1.2MB)(23ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 23ページ応ができない場合が多いことから、乳児については乳児院が児相から一時保護委託を受
け、アセスメントを含め、実質的に一時保護機能を担ってきました。
乳児院の入所理由は保護者の申請理由が主となります。虐待とくにネグレクトは、入
所後に判明することも多くあります。これらを考慮すると乳児院における被虐待児は
40%を超えると推測されます。ゆえに乳児のアセスメントは重要であり、乳児院の一時
保護機能の充実は課題でもあります。
(3)保護者・家族への支援、地域(里親含む)への子育て支援
「乳児院運営指針」では、家族の再構築に向け、家庭機能回復と親子関係再構築の育
成支援を乳児院の必要不可欠な機能としました。これまでも、育ての不安、家庭生活の
困難度、子育てのあり方等、保護者の不安、悩みや抱えた課題を受け止め、解決に向け
た手だてをともに考えたり、他機関と協働し具体的な資源を提供したりするなど、子ど
もの早期家庭復帰にむけての協働を進めてきました。
また、乳児院の培ってきた子育ての専門機能を、育児相談やショートステイ等の地域
の子育て支援機能として展開しています。
2 2 乳児院の課題と将来像
(1)専門的養育機能の充実
乳児院では、被虐待児、低出生体重児、慢性疾患児、発達の遅れのある子どもや障害
児など、医療・療育を必要とする子どもが年々増加しており、リハビリ等の医療や療育
と連携した専門的養育機能の充実が望まれているます。また、かかわりの難しい子ども、
虐待等で愛着に課題を抱える子どもなど心身が傷ついた乳幼児の治療的機能の充実も
必要です。乳児院の被虐待児の割合は、1992 年(平成 4 年)の 18.6%から 2008 年(平
成 20 年)の 32.3%に増加しています。
このため、個別対応職員や心理療法担当職員の全施設配置など、基本的な人員配置の
充実が課題となっています。また、経験豊富な看護師の確保対策として、通算勤続年数
のカウントのあり方を検討すべきことや、小児精神科や理学療法士(PT)、作業療法士
(OT)、言語聴覚士(ST)等の専門職との連携のあり方も検討が必要になっています。
(2)養育単位の小規模化
乳児院は、定員 20 名以下の施設が 39%であり、一部を除き、比較的小規模な施設が
多くなっています。乳児院における小規模化は、養育単位の小規模化であることが重要
です。また、乳幼児期の集団養育や交代制勤務による養育は、心の発達への影響も指摘
されています。養育単位を小規模化し落ち着いた環境で安定した生活リズムといとなみ
その1(PDF/1.2MB)(24ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 24ページによって、養育担当者との個別的で深い継続的な愛着関係が築かれ、乳幼児時期からの
非言語的コミュニケーションにより、情緒、社会性、言語をはじめ全面的な発達を支援
することが期待されています。
乳児院で小規模グループケア(定員 4~6 人を一つの養育単位とする)を進めるため
には、基本的な人員配置の充実が必要です。
(3)乳児院の保護者支援機能、地域支援機能の充実
乳児院では、保護者がいないまたは行方不明の子どもは少なく、退所後の家庭復帰は
55%です。しかし、その保護者の多くが子育てへの不安や負担感をもち、育児の知識や
ノウハウを持たず、家族関係の複雑な場合もあり、入所から退所、アフターケアに至る
保護者への支援機能の充実が必要です。
乳児院の保護者支援は、家族との養育の協働が基本ですが、父母の精神疾患等が主な
入所理由である子どもが 1992 年(平成 4 年)8.7%から 2008 年(平成 20 年)19.1%に
増加するなど、かかわりの難しい保護者が増加しており、対応が難しくなってきていま
す。
また、社会的養護においては、里親委託を優先して検討すべきであり、乳児院に措置
された場合でも、早期の家庭復帰が見込めない場合などは、不必要に施設入所の長期化
や児童養護施設への措置変更にならぬよう、個々の子どもと家族の状態などを検討し、
里親委託を進めるべきであり、里親支援機能の充実が必要不可欠です。
そのため、家族療法や親に対する心理相談等を行う心理療法担当職員の配置を全施設
化していくとともに、家庭支援専門相談員(ファミリーソーシャルワーカー)の業務を分
けて、里親支援の担当職員を新たに設け、個別対応職員と合わせて、4 名の直接ローテ
ーションに加わらない職員のチームにより、保護者支援、里親委託推進その他の地域支
援を進める体制を整備していくことが必要です。
また、保護者による養育が緊急的・一時的にできなくなった乳幼児を預かるショート
ステイ(短期入所生活援助事業)等の子育て支援機能は、虐待予防にも役立つ乳児院の
重要な機能であり、今後とも推進を図る必要があります
その1(PDF/1.2MB)(25ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 25ページ3.乳児院の将来ビジョン
3 1 乳児院に求められる機能
全乳協では、社会的養護全体並びに乳児院における現状と課題を受け、乳児院では今
後どのような役割が社会から期待されているのか?また、それをどのようにすれば果た
すことができるのか?を、改めて専門的機能を具体的に整理再編し、2012 年(平成 24
年)9 月に「乳児院の将来ビジョン検討委員会報告書」として示しました。乳児院の将
来ビジョンの全体像の輪郭を図1をもとにご紹介します。
〈図1 乳児院将来ビジョンフロー〉
(1)必須の機能と選択的な機能
社会的養護の課題と将来像であげられた乳児院の課題は、「専門的機能の充実」、「養
育単位の小規模化」、「保護者支援・地域支援の充実」とされています。これらの要請に
応えうる乳児院の将来像を描くためには、乳児院が担うべき専門的な機能を具体的に整
理、再編する必要があります。
まず、現段階で、養育単位がどのように変化しようとも、全ての乳児院が基本的に備
えるべき機能があります。これを「法的(必須)義務機能」とし、制度を早急に整える
ことを含め、確立すべき専門的機能と位置づけました。
その1(PDF/1.2MB)(26ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 26ページこの法的(必須)義務機能には、「一時保護所機能」、「専門的養育機能」、「親子関係
育成機能」、「再出発支援機能」、「アフターケア機能」の5つが考えられます。
次に、各乳児院の現状のマンパワーや施設環境、あるいは地域の情勢によって、機能
の持たせ方に幅の出るものがあります。現段階では、それぞれの創意工夫によって行わ
れている実践による知見を集積し、実質的な機能の可能性や課題を検討する必要があり
ます。これを「選択機能」と位置づけました。
図中の「地域子育て支援機能」がこれにあたります。先の「保護者支援・地域支援の
充実」という乳児院の課題について、その社会的責任はこれまで以上に大きくなるもの
と想定されます。現在、地域に展開する児童家庭支援センターや、保育所、あるいは子
育てひろば等の支援機関に加わり、新たな支援の可能性を模索しています。
(2)展開過程に即したアセスメントの充実
法的(必須)義務機能は、乳児院で初めて子どもと出会い、そこから、様々な支援を
経て、新しい人生の再出発を果たすまでの一連の支援過程に沿って展開するものです。
この支援の展開過程は、乳児院退所後のアフターケアまでを含み、長期にわたる場合も
あります。展開過程の節目ごとに、子どもや家庭のニーズをきめ細やかにくみ取り、支
援していくことが求められます。
全ての展開過程で、支援の基盤として求められるのがアセスメントです。アセスメン
トとは、支援対象となる全てのケースを個別的に理解し、適切な手立てを見出していく
ことです。ケースに関する情報の把握し、情報をもとにケースが抱えたより本質的な課
題やニーズを理解したうえで、それに基づき支援方針を立てるという一連の流れが基本
となります。児童自立支援計画は、こうした過程を経て検討された具体的で実効性のあ
る方針が明示されたものでなくてはなりません。アセスメントのない支援方針は、パタ
ーン化された表面的なものだったり、根拠のない独善的な方針となる可能性を生じさせ
ます。
理解困難で、対応の難しいケースが増加している乳児院の現状を踏まえれば、アセス
メントの必要性と重要性はこれまで以上に強調されなくてはならず、乳児院はアセスメ
ントが適切に行われるよう体制の充実と職員のアセスメント力の向上に努める必要が
あります。
多くのケースは、医学的課題、身体発達的課題、心理的課題等多岐にわたる課題を抱
えています。そのため個々のケースについて、一専門分野での視点でなく医療、福祉、
心理等、多角的、包括的に情報を集約してアセスメントを行う必要があります。
様々な分野、視点からみた理解を総合させて支援方針を設定することを、ここでは「包
括的アセスメント」と呼びます。なお、一般的にアセスメントという場合、診断、評価、
その1(PDF/1.2MB)(27ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 27ページ査定などと訳され、実際に様々な医学的診断、心理検査、行動評価などを単独でアセス
メントと呼ぶ場合があります。しかし、これらはたとえば障害や疾患の有無、知能指数、
愛着形成の程度など、特定の専門的視点から評価したものであり、乳児院の現場では、
これらを統合させ、子どもの全体像を理解し、日々の養育に展開できるよう具体的な方
針を設定することとなります。
アセスメントは常に仮説であり、より的確なものへと修正を繰り返さなくてはなりま
せん。この展開においてカンファレンスが極めて重要な役割を担います。カンファレン
スとは、関わる職員が一堂に会し、得られた情報を共有し、ケースの抱えた本質的な課
題やニーズは何かを追及し、それに基づいて具体的な支援方針を設定する作業です。ア
セスメントそのもののための検討会議ともいえます。
カンファレンスは、全職員による定期的なカンファレンス、児相職員も含めたカンフ
ァレンス、緊急時のカンファレンスなど、一時保護委託児童か入所児童かによって、ま
たケースの経過や状況に合わせ、必要なカンファレンスが重層的に設定されなければな
りません。そのためには、カンファレンスが設定できる体制を可能とする人員確保が必
要となります。
乳児院では、「一時保護機能」、入所後の「専門養育機能」及び「親子関係育成機能」、
退所あるいは措置変更に向けた「再出発支援機能」、退所後の「アフターケア機能」へ
と続く展開過程において、カンファレンスが適宜、効果的に設定される必要があります。
そうであれば、展開過程に即して、情報はより豊富となり、かつケースへの理解はより
適切なものへと深化することとなります(図1)。それぞれの展開過程におけるアセス
メントを、ここでは「一時保護アセスメント」「関係性(入所中)アセスメント」「再出
発アセスメント」の3段階に分けられています。
その1(PDF/1.2MB)(28ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 28ページ4.リスクマネジメント
4 1 リスクマネジメントの基本的理解
(1)リスクマネジメントとは
リスクマネジメントは、すでに病院や介護施設においては取り組みが始まっていま
す。乳児院の運営には様々なリスクがありますが、ここで取り上げるのは、乳児院にお
ける事故やケガ、病気などのリスクです。子どもが事故で死亡するとか、後遺症が残る
ような大きなケガをしてしまいますと、大変なことになります。いくら誠意をもって謝
罪しても取り返しがつきません。大切な子どものことですから、保護者の方に与えるダ
メージが何よりも大きいのは当然です。当然、乳児院は運営責任が問われますし、莫大
な損害賠償を求められることにもなりかねません。
保育士や看護師、誰でもこうした経験をしないで日々の養育をしたいと願うはずで
す。しかし、事故発生の可能性をゼロにすることは難しいことも現実です。職員誰もが
子どもの事故と隣り合わせで日々養育をしています。もちろん、リスクがあるからと子
どもを室内に閉じ込めることはできません。子どもにとってより良い環境の下で養育し
ながら、そのなかで事故のリスクを可能な限り少しでも小さくする方法を養育者みんな
で考え、実践する、これがリスクマネジメントの基本的な考え方です。
リスクとは、一般的に「危険」や「危機」、マネジメントは「管理」という意味を表
します。これはサービス評価や苦情解決と同様に、問題解決の手法の一つです。ですか
ら、施設長だけが対応を考えるものではなく、「人間はエラーを起こす」ということを
前提として、様々な事故リスクを洗い出し、ひとつずつ原因と対策を検討し、できると
ころから実行していきます。こうした組織的な体制をつくることと、自己発生を予防す
ること、事故発生のリスクを小さなものにする取り組みをリスクマネジメントといいま
す。
(2)リスクマネジメントの必要性
これまでも、発生した事故やケガ等については、事故報告書などを提出したり、重大
な事故については会議などで振り返りを行い、再発防止策などを検討してきたことでし
ょう。しかし、もはや職員の経験や勘に頼って、「当然に事故を回避できるだろう」「少
し考えれば、常識でわかるだろう」と期待すること自体が危険なのです。リスクマネジ
メントでは、非常勤であっても、新人であっても、誰であっても、同じ状況にあれば同
じように事故発生するリスクを認識して、同じように事故回避の対応を実践することが
必要です。
その1(PDF/1.2MB)(29ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 29ページまた、保護者の意識も変化しています。例えば「子ども同士のかみつき」でも、「こ
の年齢の発達段階ではよくあること」では許してもらえないことも増えています。「大
切な子どもにケガをさせておいて、『よくあること』という職員の説明、態度が不誠実
だ」と考えるわけです。施設は、かみつきの場合であればかみつき事故の原因と再発防
止の工夫を説明することが求められます。
こうした意識の変化を考えると、従来からの方法では対応できず、改めて体制を抜本
的に見直さなければなりません。事故への危険を察知して起こさないようにすること
や、「気づき」やたとえ事故が起こっても、それを最小限にする取り組みが必要です。
4 2 リスクマネジメントの取り組み
(1)リスクマネジメントの導入
リスリスクマネジメントは、一般企業では早くから行われています。事故が起これば、
企業は法的な責任を追及され、企業のイメージも大きく傷つきます。施設も例外ではあ
りません。事故を予測して予め対策を立てておくことが、事故防止の第一歩です。職員
は誰でも、子どもの安全を確保することを第一に考えているでしょう。リスクマネジメ
ントでは、こうしたあたり前のことを普段の養育の中で徹底して実行していきます。た
だ、これまでとの違いは、子どもたちに対する注意力あるいは観察力という個人レベル
で語られてきた問題を、乳児院全体の問題として考え直してみるところにあります。す
なわち、問題解決という手法を使いながら、子どもたちの健やかな育ちと安全を守ると
いう立場から、職員全員が協力し、改めて養育内容や養育環境を再点検していくのです。
乳児院での事故は、転倒・誤薬・かみつき・衝突がよく挙げられます。何故転倒が起こ
るのか、どうすれば転倒を防ぐことができるのかを検討することが事故予防に結び付い
ていきます。
危険に気づくこと
対策を講じるための仕組み、システムをつくること
ヒヤリハット報告書
職員間での「危険な
場所」の情報共有
その1(PDF/1.2MB)(30ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 30ページ(2)福祉施設の「リスクマネジメント」8 つのポイント
福祉施設におけるリスクマネジャーの実践(全国社会福祉施設経営者協議会編)より
ポイント①
一人の悩みから施設の工夫へ
一人一人の悩みを施設全体の工夫につなげましょう。
情報を共有し、施設全体でリスクマネジメントに取り組みます。
ポイント②
トップのリードで盛り上げる
施設のトップがリスクマネジメントの方針を決め、リスクマネジ
メントを引き出します。
ポイント③
みんなをまとめる組織作り
安全について、施設全体をまとめる責任者や組織を作りましょ
う。組織リードでリスクマネジメントを組織全体に広げます。
ポイント④
マニュアルで基本を決める
サービスの基本を決めることが、リスクマネジメントにおいても
重要です。「基本」はマニュアルに。サービスの改善にも、事故
の要因分析にも役立ちます。
ポイント⑤
「危険に気づき」がキーワード
事故防止は「危険に気付くこと」から始まります。些細なことで
も気づいたことは、報告しましょう。
【取り組み例】
ヒヤリハット体験記録、報告しましょう。
・ いつ、どこで、どんなことが
・ どんな状況で
・ どんな状態の利用者に
・ どんなサービスをしていて
・ 事故を起こさないためにどうする
ポイント⑥
起こった事故が対策のカギ
起こった事故やヒヤリ体験の要因を探りましょう。要因を知るこ
とが事故防止につながります。
【取り組み例】
様々な角度から、自己分析しましょう。
* 職場の体制、マニュアルから
* 建物・設備から
* 生活環境・労働環境から
* 職員要因・利用者の状況から
ポイント⑦
記録で分かる施設の姿勢
サービス実施の記録を整え、保管しましょう。記録は施設の取り組
み姿勢を伝える決め手です。
ポイント⑧ 利用者の声は施設の宝
施設からの情報提供を含めて、日頃から利用者や家族とコミュニケ
その1(PDF/1.2MB)(31ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 31ページーションを大切にし、積極歴に利用者の声を聞きましょう。
その1(PDF/1.2MB)(32ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 32ページ4 3 リスクマネジメントの具体的な理解
「危険に気づくこと」はリスクマネジメントを考えるうえで重要なキーワードです。
子どもが遊んでいるある場面をみて、危ないと感じることは、乳児院職員の専門性にか
かわる重要な資質のひとつです。すなわち、日々の養育の中で、子どもたちの事故リス
クを認知できる能力、潜在的な事故リスクを発見する能力、どうしたら事故の発生を回
避できるかを考える能力が問われるのです。
リスクマネジメントでは、こうした職員の能力を高め、標準化していくことが課題の
ひとつとなります。つまり、誰であっても、同じような事故リスクが認知され、同じよ
うに事故発生回避の取り組みが確実に実行されるような体制づくりを目指します。
(1)ヒヤリハット報告書と事故報告書
①「子どもに傷害があったかどうか」がポイント
エラー 傷害 区分
発生 あり 事故
発生 なし 事故 or ヒヤリハット
発生しそうになった なし ヒヤリハット
②ヒヤリ・ハット報告書
〈ヒヤリハットとは〉
ヒヤリハットとは、思いがけない出来事(偶然事故)でこれに対して適切な処理や対応
が行われないと、事故になる可能性がある事象で、「ひやっとした」「はっとした」体験
のことです。その情報を把握・分析をするための報告書を『ヒヤリ・ハット報告書』と
いいます(本ハンドブック巻末の様式例をご参照ください)。
〈ヒヤリ・ハット報告書の意義〉
発生した事故だけでなく、子どもが事故に至らない前の「ひやり」としたり、「はっ
と」した体験を、統一した書式にレポートとして報告し、それを基に分析することによ
って、安全対策を検討することができ、施設での事故防止に役立つことにヒヤリ・ハッ
ト報告書の意義があります。
その1(PDF/1.2MB)(33ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 33ページ③事故報告書
〈事故報告書とは〉
事故報告書とは、やむを得ず事故が発生した場合、今後も起こりうる可能性があり、
繰り返し事故を起こさないための大切な情報(記録)です。発生した事故の日時・場所・
状況・事故後にとった対応・考えられる原因や検討した再発防止の対応策を記入します
(本ハンドブック巻末の様式例をご参照ください)。
〈事故報告書の意義と必要性〉
事故報告書は、事故が発生した場合、家族や第三者に状況説明を行う際に正確な報告
ができます。訴訟に至った場合でも有力な証拠となります。また職員全員が後輩へ同じ
過ちを起こさせないためにも大切なものです。
(事故報告書への偏見〉
・ 報告書を書くことが面倒である
・ 自分の失敗になり、自分に対する評価が下がる
・ 発見した人が書くのはおかしい
・ 始末書を書いているようである
・ 一生懸命に仕事をしているのに、好きで事故を起こしたわけではない
私たち職員は、どれだけ職場でひやりとしたり、はっとする体験を多く感じるということ、
すなわちどれだけ「危険がある」ということに気づかれているということです。すなわち、
気づくことができるかが大切になります。
そして施設の中で、どんな危険を感じているかについて、積極的に意見を交換し、創意工
夫を行い、事故予防策に結び付けていくことが大切です。
事故報告書は、職員にとって冷静に事故に対する分析を行い、反省する所はどこなのか
的確に判断できるものです。そうすることで今後の対応の仕方、支援の仕方がみえてきま
す。事故が発生しても職員全員が、同じ事故を起こさない、つまり再発防止に役立てるも
のです。
その1(PDF/1.2MB)(34ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 34ページインシデント(ヒヤリ・ハット)、アクシデント(事故)区分(参考)
(日本リスクマネジメント協会)
1.用語の定義
1)アクシデント(事故)… 事故とは、過失の有無に関わらず、養育に関わる場所で、養
育全過程において発生するすべての人身事故を言います。
2)インシデント(ヒヤリ・ハット)… ヒヤリ・ハットとは、養育の場で「ヒヤリ」とし
たり、「はっと」したりした事例で、結果として子どもに影
響を及ぼすに至らなかったものを言います(処置なし)
2.医療事後等のレベル0~5区分内容
区分 内容 例
インシデント レベル0 間違ったことが発生した
が、実施されなった場合
事前に気づき何も起こらな
かった
落下物(釘、ビン、ゴム、
薬、水滴等)配薬ミス、厨
房ミス
アクシデント レベル1 間違ったことが実施した
が、子どもには変化が生じ
なかった場合
簡易な処置後、回復できる
場合
爪切り、厨房ミス、誤薬、
挟み込み
打撲等で軽度の発赤、軽度
の処置で回復
レベル2 事故により、子どもに何ら
かの影響を与えた可能性が
あり、医療措置、検査を受
けた場合(回復に3日以内)
打撲転倒で裂傷があり、処
置、検査の必要性がある(2
~3 日で治癒しそうな傷)、
火傷、誤薬
レベル3 事故により、子どもに何ら
かの変化が生じ、治療・処
置の必要が生じた場合(回
復に4日~1 か月以内)
落下、転倒、挟み込み等で
骨折ギブス固定する(治癒
に 1 ヶ月以内要する)
レベル4 事故により、生活に影響す
る高度の後遺症が残る可能
性が生じた場合(回復に1 か
月以上)
挟み込み、転倒、落下で複
雑骨折をし、手術を要し 1
か月以上入院の必要性が
ある
レベル5 事故が死因となった場合
3.レベル0~5でインシデント、アクシデントが区分されている
1)レベル0 …インシデント(ヒヤリ・ハット)報告の作成
2)レベル1~5…アクシデント(事故報告)の作成
その1(PDF/1.2MB)(35ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 35ページ4 4 リスクマネジメントの実践、4つのプロセス
一般的に、リスクマネジメントは、リスクの把握、リスクの評価・分析、リスクの改
善・対処、リスクの再評価といったプロセスで実行されています。
【リスクマネジメントのプロセス】 【乳児院における事故予防活動】
(1)リスクの把握
乳児院において、まず事故に発展する可能性のあるリスク(問題点)を洗い出すこと
から始まります。事故予防の観点からは、事故に至らない事象「ヒヤリ・ハット報告書」
の事例を数多く収集し、多方面から事故発生リスクを把握することが必要です。全職員
に報告してもらってください。書くことが事故発生リスクに対する意識づけとなるはず
です。
(2)リスクの評価・分析
「ヒヤリ・ハット報告書」や「事故報告書」の報告内容は、些細な事象から重大な事
故まで様々です。子どもはリスクのかたまりですから、あらゆるヒヤリ・ハットが報告
されるでしょう。それらについてすべて原因と対策を考えていくことは現実的ではあり
ません。報告された様々なリスクのうち、①ヒヤリ・ハットする経験がしばしば起きて
いる問題、すなわちリスク発生頻度の高いもの ②あまり発生頻度は大きくないにして
「ヒヤリ・ハット報告書」等により、事故に発展す
る可能性のある問題点を把握する
施設の問題点の重大性を評価し、対応すべき問題点
を選別して背景要因を分析する
養育の流れの改善の視点から事故予防対策を検討、
実施する
対応策の遵守状況の確認とともに対応策が不十分
な場合はフィードバックして再検討する
その1(PDF/1.2MB)(36ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 36ページも、起きたら被害が大きくなると予想されるリスク、に絞り込む作業が必要になります。
「ヒヤリ・ハット報告書」や「事故報告書」の重大性(リスクの大きさ)を評価・分
析し、再発を防止すべき「ケース」の選別する必要があります。さらにその「ケース」
の背景にある要因を分析することが大切です。
(3)リスクの改善・対処
リスクの改善・対処の方法には大きく分けて、①リスクコントロール(回避・予防・
防御)と②リスクファイナンシング(金銭的対処)の二通りがあります。
①リスクコントロール
「リスクコントロール」に該当するものとしては、リスクに関わる事象との関係を完
全に絶つ「回避」や、事件を起こさないようにする「予防」、起こった事件の影響を排
除したり拡大を防止したりする「防御」が挙げられます。
リスクをコントロールする最善の方策は、事故の予防対策を講じることにつきます。
この予防対策(改善策)の検討は、
②リスクファイナンシング
事故補償を金銭的に対処する方法であり、損害賠償保険に加入したり、自己資金によ
る対応するなどが代表的な方策です。
(4)リスクの再評価
一連のプロセスが機能しているかどうかを再評価するころは重要なことです。改善策
が守られているかどうか、改善策を講じた結果、事故の発生が軽減・防止されているか
どうかなど、様々な角度から検証する必要があります。予防対策の実行後も同じような
「ケース」が発生している場合には、対策が不十分ということになり、再度検討のやり
直しなどフィードバックが必要となります。具体的には、リスクマネジメントの方法は
問題解決手法の一つとしてP⇒D⇒C⇒Aのサイクル(Plan⇒Do⇒Check⇒Action]を踏
まえて取り組みます。
その1(PDF/1.2MB)(37ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 37ページ第Ⅲ部 乳児院における支援 ~事例に学ぶ~
1.一時保護における支援
(1)乳児院の一時保護
虐待を受けるなど心身の安全が脅かされている児童を一時的に保護する施設を児童
相談所(以下、「児相」)に設けることが法律で定められています(児童福祉法第12条
の4)。この施設を一時保護所といいます。全国に207か所ある児相の内、129か
所の児相に(平成24年4月1日現在)一時保護所が付設されています。しかし、ほと
んどの一時保護所は、乳児に必要な設備や職員配置がなされておらず、乳児対象の一時
保護所は全国のどの児相にも付設されていません。そのため、乳児の場合は、緊急の医
療的手立てが必要な場合を除き、乳児院に委託一時保護を行うことが通例となっていま
す。
このことは、他の施設種別と大きく異なる点の一つです。他の施設種別では、ほとん
どのケースが児童相談所の一時保護を経てから入所に至ります。この間に、ケースに関
する調査や必要な支援を行い、同時に施設の説明等を本人や家族に行い、入所の同意を
確認して入所に至ります。乳児院で一時保護を行うということは、こうした一連の手立
てが行われないまま乳児院の生活が始まることを意味します。同時に一時保護期間に行
うべき本来の手立てを、乳児院は児童相談所と協働しながら行うことが求められるので
す。
一時保護の主要な目的は以下の3つです。
①子どもの安全を確保すること
②ケースのアセスメントを行うこと
③子どもや家族が抱えた課題の解決や乳児の健全な育ちを支えること
この 3 つの目的を果たすことを念頭に乳児院は支援を行う必要があります。以降それ
ぞれについて説明します。
(2)子どもの安全を確保すること
乳児が放置されている場合や家庭内で虐待を受けているなど、生命の危機や心身の健
康な育ちを著しく妨げる状況から子どもを守り、安全を保障するための機能です。命を
守ることは何よりも優先すべきことで、乳児の場合は緊急に対応することが求められま
す。また不適切な育児環境にいたことが子どもに与える影響は甚大です。乳幼児の身体
の成長と心の発達は日々の安定した育児が基盤となり進む過程です。不適切な環境は乳
幼児の心身の成長と心の発達を阻害させます。それが長期に及ぶほど阻害状況は深刻化
その1(PDF/1.2MB)(38ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 38ページしていきます。ゆえに、早期に適切な介入を行い、子どもの安全を確保することが必要
となるのです。
安全の確保は、乳児院に子どもを保護するだけでは足りません。安全な暮らしと健康
な育ちをささるための適切な養育環境が用意される必要があります。なかには、何らか
の疾病であったりする子どもがいます。食事、睡眠、排せつ、衛生、生活リズム等、そ
の子にとって安全なものかどうかを常に吟味し、個々の子どもに適した生活環境が提供
されなくてはなりません。
安全を保障するための必要最低限の情報は、保護委託と同時に得ていなくてはなりま
せん。感染症(B型肝炎、HIV等)の把握、疾病や障害の把握、アレルギーの有無等
健康診断や医学情報は喫緊に必要です。また家族による子どもの違法な奪還などのリス
クもあり得ます。子どもの安全と安心を脅かすリスクの情報については、早急に把握し、
職員間で共有し、対応策を講じる必要があります。
委託措置を行う児相とは、こうした留意点の理解を日ごろから十分に共有できるよう
に働きかけておくことが重要です。不十分な情報は、非常に危険で、時に命にかかわる
ことを強く認識しましょう。
(3)ケースのアセスメント
ア)アセスメントとは
一時保護期間で行う重要な作業にアセスメントがあります。アセスメントとはケース
に関する情報を把握し、子どもと家族がどのような課題があり、今後どのような支援が
必要かを検討することです。乳幼児たちの課題は多様かつ重く、また極めて個別的です。
ゆえに、子ども達一人ひとりを丁寧に理解し、個々の課題に即して具体的な支援の手立
てを検討する必要があります。
なお、一般的にアセスメントというと診断、評価、査定などと訳され、実際に様々な
医学的診断、心理検査、行動評価などを単独でアセスメントと呼ぶ場合もあります。し
かし、これらはたとえば障害や疾患の有無、知能指数、愛着形成の程度など、特定の視
点から評価したものに過ぎません。乳児院では、人間の一部の特性や側面を評価するだ
けでなく、心と身体を含めた全人的なアセスメントが求められます。疾病や問題行動だ
けでなく、子どもの全体像を把握し、その背景にある様々な課題を理解し、その解決と
健やかな育ちを補償するための具体的な手立てを検討することです。乳児院におけるア
セスメントは、「人生の初期アセスメント」と呼んでよく、その後措置変更や在宅支援
へと続く支援の基盤となるものです。
アセスメントを成立させるには 3 つの要件が必要です。一つは、総合的な「情報の把
握」ということ、二つ目は情報をもとに背景要因や抱えている課題を「理解し整理する」
こと、三つ目は理解された課題の解決に向けてに基づいて「援助方針を立て、実施する」
その1(PDF/1.2MB)(39ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 39ページことです。[情報の把握]→[理解・課題の整理]→[援助方針の設定と実施]が基本的な流れ
となります。こうした作業を児相と協働しながら進めることが求められるのです。
イ)情報の把握
アセスメントを行うには十分な情報が必要です。まず緊急に必要な情報があることは
(2)で述べました。子どもの全人的な把握のためには、さらにより多くの情報が必要
です。把握すべき情報は大きく3つに分かれます。
①子どもの全体像を把握するための情報
②生育歴や家族の状況など子どもの全体像の背景要因に関する情報
③回復と成長の経過
①はその時の子どもの状態を、問題行動や症状にとどまらず、子どもの全体の様子が
分かるために必要な様々な視点からの情報です。②は、その時の子どもの状態像が形成
された背景や原因を探るために必要な情報です。子どもの状態には、そうならざるを得
なかった必然があります。こうした必然を理解するための情報です。この際、医学的所
見(検査結果や診断等)、生育歴、家族の状況などは必須となります。③は、乳児院に
委託後の、子どもの変化や成長を捉えるための情報です。これにより子どもへの理解は
より深まり、援助方針や関わり方を見直し、より適切な手立てを見出すことが可能とな
ります。経過把握においては、日々の子どもの様子を記録として残すことが必須となり
ます。
情報を把握するための手立てとしては3つの方法が考えられます。
まずは関係機関からの情報を収集することです。これについては調査権を持つ児相が
主となります。医療機関や家族の住む要保護児童対策地域協議会所属機関からの情報
は、児相を通して把握することが原則です。
2 つ目は日々の生活の中での行動観察です。日々情緒豊かに子どもとかかわりつつ、
かかわる子どもや全体の動きを冷静に見つめ、捉えることです。乳児院の職員には、こ
の力が強く求められます。日々の生活の中で見せる子どもの状態を身体的側面、心理的
側面および社会的側面の3つの視点から見つめ、捉えることです。これによって子ども
を総合的に捉えることを可能とします。
3 つ目は家族からの情報です。家族から直接話を聞くことが主となりますが、情報が
必要だからと不躾に質問したり、詮索したりするよう姿勢は厳禁です。支援者と家族と
の信頼関係のもと、情報をお尋ねするというスタンスが原則です。
把握すべき情報の具体的な内容や、それに基づく理解の視点などについては、全国乳
児福祉協議会(以下、「全乳協」)で発刊した『乳児院におけるアセスメントガイド』を
参考にしてください。
その1(PDF/1.2MB)(40ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 40ページ(4)課題解決と育ちを支えるための支援
一時保護期間に、アセスメントを踏まえ、必要な手立てを提供することは重要です。
この際、保護期間内でできることは何かを検討し、保護の終了段階では、残された課題
の整理と、今後に必要な支援について検討、整理しなくてはなりません。
支援の内容として次のようなことが考えられます。
①心身の健全な発育・発達の保障
②疾病や障害への対応や虐待等による心理的後遺症への手当て
③育児技術を伝えるなど家族(保護者)の抱えた課題解決に向けた支援
④親子交流の場を設定することや、子どもの育ちや魅力を伝えるなどによる親子の関
係調整
⑤家庭復帰あるいは措置変更に向けた準備
これらを行うにあたっては、児相との協働が原則となります。本ハンドブックにはい
くつかの事例が提示されています。支援の手立てを検討する際の参考になるものと思い
ます。
その1(PDF/1.2MB)(41ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 41ページ(5)事例に学ぶ1
① 入所同意が得られない一時保護
ⅰ.事例の概要
一時保護委託時年齢 :2歳0か月
一時保護委託解除時年齢 :2歳8か月
一時保護委託理由 :母からの虐待のため
家族構成 :母、祖父、子A
ⅱ.経過
(a)一時保護から退所までの経緯
母からの虐待による骨折のため、子Aが入院し、母は拘留となりました。母が自身に
対する祖父からの虐待を訴えたため、子Aは一時保護となりました。病院に 1 週間児相
職員が付添った後、入所同意が得られないまま一時保護委託となり、約 3 週間職員が付
添いました。退院後も入所同意に至らず一時保護が約 3 か月継続されました。入所同意
に至らなかった理由には、母や親族の施設入所への漠然とした嫌悪感や、警察による聴
取や審理への影響を鑑み、児相職員と母がよく話し合いを持てなかったことがあげられ
ます。親族らの乳児院での面会などを経て母から入所同意を得、措置入所となりました。
入所当初の情報は主に骨折に至る経緯やそれまでの通告の有無で、生活の様子や親族
との関係などに関する情報は少なく、不確かなものも多くありました。祖父から母に対
する虐待に関しては真偽不明のままでしたが、後に母自身が虐待はなかったと釈明しま
したので、祖父母宅への引取りが決定となりました。そこで、引取りを望む祖父母に、
リハビリやセラピーの必要性の理解を得たうえで面会が実施されました。引取り予定間
近に母が元夫との関係で退所が一旦延びましたが、初めての外泊をきっかけに引取りが
具体化しました。本乳児院から要望していた祖父母と母との関係修復や、母と、子Aら
の関係のアセスメントなどが十分でないままの退所となりました。
(b)子Aの様子
骨折による病院入院中は、ギプスで腰から下を固定され足をつられた状態で不自由な
うえ、付添い職員の顔ぶれが毎回変わり不安だったでしょうが、よく喋り、自ら「ママ
① 入所同意が得られない一時保護
事例に
学ぶ1
その1(PDF/1.2MB)(42ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 42ページどうしたの」など話していました。食事の促しや遊びの中では「これがいい」など要求
を出しつつ「ハイ」と受け入れていましたが、顔なじみの職員ができると、自分の思い
が通じずイライラして激しい口調になったり職員をひっかいたりするようになり、上手
に自分の思いを伝えられない様子が見られました。そのため、子Aの担当養育者が、子
Aと過ごす時間を増やしコミュニケーションの機会を増やすことで、できる限り子Aの
思いを受け止めることを、子Aに伝えていきました。
病院退院後、乳児院に入所した際には、初めての場所や職員に対して緊張しつつ笑顔
を見せていました。当初はギプスも取れず、自由に動けない状態でしたが、不安や苛立
ちを感じながらも、泣くことや言いたいことをぐっとこらえている様子でした。生活に
慣れてくると、職員や他児に対しての強い言動が見られるようになり、その頃から、昼
夜を問わず股間への自体愛的行動が増えてきました。初めはギプスの当たる感覚だった
のかもしれませんが、ギプスが取れてからも続きました。また些細なことで怒号を飛ば
し、思い通りにならず泣き続けることも多くなっていました。
(c)職員の養育の様子と退所まで
職員は、子Aの「ママどうしたの」「じぃじどうしたの」などの発言を重く受け止め、
子Aの被虐待体験を日常の中で必要以上に想起させてしまわないよう、話す際に強い口
調や否定的な言葉にならないよう気をつけました。また、生活の中で起こる様々な思い
を激しくではなく落ち着いて安心して表現できるよう、日頃から小さな自信を積み重ね
ていけるようサポートしていきました。
また、日常の養育と並行して心理療法担当職員による週 2 回のプレイセラピーを実施
しました。セラピーでは、母や祖父との間で起こった恐ろしいできごとを繰り返し表現
して体験の整理を行ったり、本乳児院での穏やかな生活の再現をして職員の優しく養育
する姿を自分自身の心に定着させたりしていました。
本乳児院で安定した生活が続いていき、やがて他児をリードして遊んだり、年少児を
気遣ったりする姿も見せ始めました。以前ほど気分の切り替えに時間がかかることも少
なくなり、日中に股間を触ることもほとんどなくなっていきました。
裁判で母が祖父からの虐待はなかったと述べたため、結審後に祖父母宅への引取りが
決定されました。子Aは初回の面会では緊張して泣くこともできないほどでしたが、繰
り返すうちに面会後に祖父母を求めて泣く様子が見られるなど、子Aにとって祖父母が
大きな存在となっていったように見られました。
また、面会で祖父母らも乳児院を知り、職員と関係を築いていきました。母と元夫と
の関係で祖父母も翻弄され面会が途切れることもありましたが、祖父母宅への短期外
泊・長期外泊の段階を経て、引取りとなりました。
その1(PDF/1.2MB)(43ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 43ページⅲ.まとめ
一時保護委託時のアセスメントが不十分なままの入所でした。児相で日常の母子の様
子や親族との関係などの情報収集が十分にはなされないままでしたので、乳児院内で観
察しながら情報の共有や見立てを繰り返し、手探りで関わっていました。一時保護期間
中、全職員が子Aを丁寧にアセスメントし対応を考えていた経過やセラピーの実施が、
乳児院での子Aの安定につながったと感じています。児相の情報のみに頼るのではな
く、乳児院が独自に関係性を見立てる力や発達状況の理解力を養っていくことが大切で
あると感じています。
また、関係機関との連携の必要性は高く、情報交換するだけでなくカンファレンスで
課題となったことを一つずつ確認して次のカンファレンスや処遇決定につなげていく
ことが重要であると感じます。この事例では一時保護期間が長くなりましたが、祖父母
と職員が信頼関係を築くことで入所同意を得られました。保護者との信頼関係が子ども
の処遇にとって大きな要素となることを再確認した事例でもあります。
その1(PDF/1.2MB)(44ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 44ページ② 長期化する一時保護
ⅰ.事例の概要
一時保護委託時年齢:6か月
措置入所時年齢:1 歳9か月
退所時の年齢 :3歳
入所理由:揺さぶられ症候群の疑いにて病院より虐待通告を受け、一時保護委託
家族構成:父、母、子B
ⅱ.経過
(a)出産から一時保護までの経緯
母は不妊治療の末子Bを妊娠、その後に父と入籍しました。子Bは、低体重で生まれ、
生後 30 日間 NICU に入院し、1週間後に退院となりました。
子Bは出生時には低体重であったものの、大きな問題はなく自宅にて養育を開始しま
した。日中は近隣に住む家族の支援がありましたが、父は夜勤が多いため、夜間は母一
人で子Bを見ていた状況です。在宅中の保健センターの訪問時に、後の里帰りを母方祖
母に断られていたことや子Bを叩いてしまったという発言がありました。
子Bが生後3か月時に、嘔吐・活気不良のため病院に救急搬送されます。その際に、
両側性硬膜下血腫・前頭葉の軟化症が認められ、揺さぶりによる受傷の強い疑いがあり
虐待通告となりました。その後、痙攣群発等の症状が見られ、命が危ぶまれるも一命を
取りとめ意識回復しています。入院加療にて状態は安定するも、脳のダメージは大きく
重篤な障害が残る可能性が強い状態でした。原因について、母は「消去法的に自分しか
いない」と認めていました。
(b)一時保護の際の様子
関係者会議や保護者面談、訪問の後、自宅への退院が可能と判断され、試験外泊が行
われましたが、病院へ帰院の際に、頬に円形打撲痕があり再度虐待通告されました。警
察も介入し、入所前関係者会議、病院でのカンファレンスの後、本乳児院に一時保護さ
れました。施設入所に関しては祖母が強く反応し、母は虐待をしていないと拒否的で入
② 長期化する一時保護
事例に
学ぶ1
その1(PDF/1.2MB)(45ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 45ページ所に納得されず、また家族は障害の受容も出来ず、病院側に原因があると話していまし
た。
(c)一時保護から措置入所への切り替えまで
一時保護された後も祖母や母の児相に対しての攻撃は止まず、入所には納得されない
状況が続きました。一方で、乳児院に対しては攻撃的な態度は示されず、定期的な面会
や子Bの通院の付き添いをきちんとされていました。母は、祖母のいないところでは職
員に対して少しずつ本音を語られる場面も見られていました。子Bは、日常生活での与
薬や体操、授乳や離乳食にかなりの時間を要すため、職員が一対一で養育にあたる時間
が長く、医療機関へのフォローやリハビリが隔週で行われました。また、感染症に罹患
をすると重症化しやすく入院を繰り返すことも 1 年ほど続きました。
家族が入所に納得されないまま 4 か月が過ぎ、関係者会議が重ねられました。引き取
りに向けたプログラムが進められようとした直前に、父母が逮捕されました。父はすぐ
に釈放されましたが、母は起訴され裁判となったため、今後の方向性については一時保
護のまま、裁判の結果を待つと、児相より方針が立てられました。一時保護から 9 か月
後、母が保釈され面会が再開されます。一時保護から 1 年 2 か月後には、母へ執行猶予
の懲役刑が下り、一時保護から 1 年 3 か月で措置入所へと切り替わりました。
ⅲ.まとめ
母は、措置入所以降、少しずつ当時のことについて本音を語られ、母方祖母に頼るこ
とが出来なかったことや、母方祖母が児相に対して、「この子は虐待なんかしていない」
と言ったことで、母自身本当のことを話すことができなかったと話していました。
母方祖母は判決が出た以降、児相に対しての攻撃はなくなり母に対しても静かに見守
っておられ、母方家族で母を支えておられる様子が見られるようになりました。
子Bは3歳を前に身体の抵抗力も増しました。医療機関の指導や養育の中で寝返りや、
ずり這いを獲得しました。また、有意味語が少しずつ出始め、子Bなりの成長が見られ
ていますが、食事は離乳食で介助が必要でした。虐待に至った経過を振り返っても、早
期の家庭復帰は困難だと思われました。退所にあたっては、子Bの発達の保障という視
点から、乳児院から次の担い手となる移行先の検討と、離れていても家族としての繋が
りを感じられる支援が必要で、できるだけ丁寧な関わりと関係機関との相談を行いまし
た。
その1(PDF/1.2MB)(46ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 46ページ③ 短期入所利用を繰り返す一時保護
ⅰ.事例の概要
一時保護委託時の年齢:0 歳 0 か月(初回)
一時保護委託解除時の年齢:0 歳3か月(最終回)
一時保護委託の理由:新生児期等の養育が困難
(父母共に知的障害、生活保護世帯)
家族構成:父、母、子C
ⅱ.経過
(a) 父母の成育歴・現状および本児の入所経緯
父は知的障害であり、幼少期から要保護児童として児童養護施設および知的障害児施
設に入所していました。支援を受けられる親族等もなく、義務教育終了後に就職して自
立を目指したものの、長続きせず経済的に困難な状況となり、福祉事務所の支援を受け
ながら転々とアルバイトをして過ごしていました。
母も知的障害者であり、以前から親族と不仲で支援は受けられない状況で、いわゆる
家出状態で転々と友人宅等に居候して過ごし、就業経験もありませんでした。
結婚後も生活は安定せず、生活保護世帯でした。
子Cを出産後も生活の安定が見込めなかったため、新生児期は乳児院に一時保護する
ことが保健上の最善策という観点から、一時保護されることになりました。なお、配慮
する事項として、「面会時の育児練習」、「一度の一時保護期間を数週間に設定し、繰り
返し一時保護を行う(一時保護解除中は家庭へ帰省のイメージ)」、「生活保護の扶助費
等が減額とならない一時保護期間の設定」の三点が関係機関の申し合わせ事項となりま
した。
(b)入所直後の様子
父は、新生児期の子どもは未熟なので、丁寧かつ慎重に身辺ケアが必要であることは
理解していましたが、実際にどのように子どもに関わればよいのかは自信がなく、見て
いるだけでした。それにもかかわらず、母に対して強い口調で世話することを求めてい
③ 短期入所利用を繰り返す一時保護
事例に
学ぶ1
その1(PDF/1.2MB)(47ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 47ページました。母は子どもを可愛がるものの、子どもの保健衛生を保つための生活や、調乳の
分量計算等をはじめとする育児に必要な知識や方法については、きめ細かく支援する必
要がありました。また、産後の母体の回復も順調ではなかったので無理のない範囲での
面会ペースを設定しながら、育児技術を少しずつ習得しました。
(c) 初回の一時保護解除時の様子
初回の一時保護解除時、児童福祉司と保健師が新生児の養育環境の適否を判定するた
めに、事前に家庭訪問を行いました。おおむね良好の結果により一度目の一時保護解除
となりました。保健上、子どもに過度な負担が掛からないように3泊4日を設定しまし
た。なお、子どもの急病時に備えて平日休日夜間等の医療機関のシミュレーションを行
いました。また、非常時は予定を返上して乳児院に戻ってくることを約束しました。
(d)関係機関との連携の様子
関係機関との連携として、児相・保健所・福祉事務所・出生病院および乳児院が、支
援の方向性と情報共有と役割分担を行いました。子どもの身辺ケア等については、きめ
細やかな支援を段階的に根気よく進めることで一致することができましたが、経済的な
支援に対する課題として、父が生活保護の扶助費等への影響に強いこだわりと生活保護
担当者への不満が大きく、特に慎重な対応と連携が必要でした。
(e)数か月後の様子
母の産後の回復は順調で、一時保護中の面会も定期的になされました。計画のとおり
一時保護は短期間を繰り返し行い、二度目の一時保護解除は5泊6日の設定、三度目の
一時保護解除は6泊7日の設定としました。また、この頃になっても調乳量と授乳回数
が乱れてしまうときがありましたが、その都度、担当養育者が母に丁寧に説明をし、方
法を確認しました。
(f) 家庭における養育の様子
家庭における養育の様子と子どもの保健確認をするため、一時保護解除中は児童福祉
司と保健師が家庭訪問を行いました。良好とは言えないながら、最低限の育児は行われ
ていると判断されていました。
また、乳児院に再一時保護するときに、身体測定・スキンケアの様子・生活リズムの
様子・調乳量と授乳量と授乳回数の様子・検温記録の確認・便尿の状態回数の様子等の、
子Cの状態も確認しました。若干の心配はありましたが、大きな発達上の課題等は見ら
れませんでした。父母が家庭での出来事をたくさん楽しそうに話されるので、具体的に
様子をうかがうことができ、父は育児にはあまり協力的ではない様子が分かりました。
その1(PDF/1.2MB)(48ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 48ページ(g) 保護の意義と保健の確保
本事例については、父母の養育知識や方法に課題があったため、高いリスクの時期で
ある生後3か月頃までを、乳児院で繰り返し4回の一時保護することにより、子どもの
保健上の最善策をとることができました。1か月健診および3~4か月健診で順調な発
育が確認されたことは幸いでした。児相や関係機関との協議により、今後も父母に急病
等の不慮の事態が生じた場合は乳児院に一時保護を行い、平時は保育所の子育て支援を
利用しながら健康に過ごすことを確認しました。
ⅲ.まとめ
乳児期の不安の状況と父母の実態を考えて、乳児院を活用して「面会時の養育支援」
「父母の見守り」などを続けて、父母の地域での子どもを置いた家族としての生活の維
持を支えた事例として、乳児院の存在意義としてもよい事例と思います。
父母の状況から考えて、子Cのいない生活は考えられず、母子分離による母の不安を
考えると生活施設の乳児院の活用は適切であったと考えます。関係機関との密な関係性
の維持は、子C家族を支える上でも関係性の薄さなどであれば、繰り返しの利用により、
保育士や看護師、家庭支援専門相談員など乳児院の職員との関係も深まることで、より
良いものになったとケースから伺えました。乳児院が子どもを預かっている場として、
措置入所だけでなく、このケースのように「一時保護委託」を繰り返し、父母を支えて、
子育てを支えて関係機関との地域で進めていくことがこれからも望まれると思います。
その1(PDF/1.2MB)(49ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 49ページ④ 緊急一時保護1 ~こうのとりのゆりかごから緊急一時保護~
ⅰ.事例概要
一時保護委託時年齢:生後1週間
退所時の年齢:2歳0か月
一時保護委託の理由:病院に預けられたことによる
家族構成:母、母方祖父母、子D
ⅱ.経 過
(a) 緊急一時保護の経過
子Dは生後 1 週間でA病院に預け入れられました。家族は、匿名を強く求め、病院職
員が相談を促したところ、頑なに拒否されたため、預け入れの詳細は聞くことができま
せんでした。また、病院からの手紙の受け取りも拒否されました。しかし、母の話から
子どもの出産した病院については知ることができました。病院で健康診断を受けた後、
当日夕刻に乳児院に緊急一時保護となりました。
(b)一時保護から措置入所へ
母が出産した病院を教えてくれていたことから、児相が病院に母子について照会を
し、その回答が得られたのは、一時保護から 1 か月後でした。児相は、その回答をもと
に、戸籍請求等による社会調査を 2 か月ほどかけて実施し、さらに、母及び母方祖父母
あてに出生届け提出勧奨のための手紙を送付されました。
入所後 4 か月頃、母方祖父母から児相に、「児相からの連絡は迷惑であり、戸籍の必
要性は理解するが、就籍をする気はないので今後関わらないで欲しい」という旨の連絡
が入りました。そのため、児相としてケース移管も含め、今後の見通しが立たない状態
になりました。そこで、児相は、就籍について弁護士と役所に相談し、子どもが出生し
た病院から出生証明書を交付してもらうことにしました。それと同時に、児相は、母方
祖父母に再度出生届け提出勧奨のための手紙を郵送しましたが、応答がありませんでし
た。職権により児相は、所長名で、役所に出生のための記載事項証明書を提出し、それ
により就籍され一時保護から約 8 か月後に乳児院への措置入所となりました。
④ 緊急一時保護1
~病院から緊急一時保護~
事例に
学ぶ1
その1(PDF/1.2MB)(50ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 50ページしかし、その後、児相の継続した調査の結果、月を遡って親権者等が子Dの就籍を行
っていたことが判明しました。一度は職権で就籍され措置入所となった子Dですが、改
めて親の同意(親権)の必要性という問題が発生し、乳児院への措置入所は再度月を遡
って白紙となりました。最終的には、再三にわたる児相の粘り強い働き掛けで親権者か
ら措置入所の同意と特別養子縁組を前提にした里親委託への同意が得られましたが、す
でに緊急一時保護による入所から 1 年 6 か月が経過していました。
その後、里親とのマッチングを行い、子Dが 2 歳の時に退所、里親委託となりました。
(c)出現した課題
この間、様々な理由から、子Dの名前は入所当初の仮の名前も含め3度変遷していま
す。職員も子Dの名前を時々間違えることがあります。これは、子Dにとっても、今ま
で呼ばれていた名前と今日呼ばれる名前が違うことです。子Dにとっては、戸惑いが生
じたであったものと、容易に想像できます。名前は、人がアイデンティティを形成する
上で最も重要な要素であることを考えると憂慮に堪えません。愛着形成のうえでも極め
て望ましくなく、児相には緊急対応を求めました。
緊急一時保護から 2 か月後に母子健康手帳が交付されました。また、児相には種々の
予防接種が受けられるよう手続きを願いました。その後、間もなく体調を崩し「上気道
炎」の診断を受け、1 週間の入院となりました。血液検査で、肺炎球菌が認められたた
め予防接種を受けることを勧められ、児相と相談し予防接種の承諾書を児相所長名で出
してもらい、必要な予防接種を受けることができました。入所中、子Dに発育・発達の
面での心配は特に見られませんでした。人見知りは激しいがとても元気に毎日を過ご
し、里親とのマッチング期間を経て里親委託による退所となりました。
本事例のように親が判明したものの、児相と親の関わりが困難となったため、子ども
の健全な発育・発達に必要な健康管理(母子健康手帳の発行、健康診断、予防接種等)
さえ支障をきたしかねない場合が生じてしまいます。意見を表せない子どもたちの成長
と育みの課題が、社会や行政に投げかけられています。どのような課題が出現するかも
不明です。そこに、子どもたちの成長を、社会全体で見守る必要があり、社会的養護の
重要性が改めて問われています。
ⅲ.まとめ
本事例では、出生時の状況から就籍の経緯、里親委託への流れが書かれております。
出生した子どもの権利擁護の立場で、関係機関が迅速に動いていくべきです。児童相
談所長が判断できる健康管理(母子健康手帳の発行、健康診断、予防接種等)は、1 か
月以内には対処してほしいケースです。また、入所時に一時保護期間を想定して、子ど
もの健康に対処するためにも、児童相談所長名で健康に関する同意書などを乳児院側が
その1(PDF/1.2MB)(51ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 51ページ入手しおくことが望ましいです。措置入所承諾、特別養子縁組承諾が 1 年半もかかって
しまうということは、子どもの権利擁護からは、制度上、運営上のネグレクトといわれ
てもいたしかたないことです。
(参考)
「民法等の一部を改正する法律(平成 24 年 4 月 1 日施行)」のうち民法関係で、「家庭
裁判所は『父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害
するとき』に2年以内の期間を定めて親権停止の審判をすることができる。」とされて
います。さらに、児童福祉法関係では「児相長は、親権喪失、親権停止及び管理権喪失
の審判並びにこれらの審判の取り消しについて、家庭裁判所への請求権を有する。」と
あります。
その1(PDF/1.2MB)(52ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 52ページ⑤ 緊急一時保護2
ⅰ.事例の概要
家庭内で父から母へのDV、子どもへの暴力があり、父母に軽度の知的障害との事例
です。過去にも一時保護やショートステイの利用を重ねており、母の養育能力や父の母
子への暴力といった問題で、地域においても要支援ケースとされていました。
一時保護委託時の年齢 : 1歳3か月
一時保護委託解除時の年齢: 1歳5か月
一時保護委託理由 : 父からのDV。母の養育能力にも課題あり。
家族構成:父、母、子E
ⅱ.経過
(a)ショートステイから一時保護委託へ
週末夕方を過ぎてから、地域の母子相談員より「母がDVから逃れるために子どもを
連れて家を出たが、養育能力の問題もあり、移動しながら母 1 人で子どもを養育するこ
とは難しいため、ショートステイで預かってほしい。」と連絡が入りました。
以前にもショートステイ歴があり、子Eの喘息への日常的なケアとして投薬と吸入が
必要であること、発達に遅れがみられ特別な配慮が必要であるとの情報は把握していま
したが、今回はそれに加え、母が感染症に罹患していることが判明し、子Eも数日内に
は発症するであろうことが予想されました。
こうした状況から、通常のショートステイの枠を超える対応が必要となる可能性が高
いため、この時点で一時保護の必要性も視野に入れて児相へ連絡してもらうよう、母子
相談員へ依頼しました。
夜間になって母子相談員と母子が到着。週末の夜間対応で関係機関との連絡がつきに
くく、方針も明確にならないまま、ショートステイ開始となりました。この時の母は無
表情で、子Eを抱き上げず脇をもって引きずるように移動させ、ソファーに荷物を投げ
置くように座らせる様子から、DVからの保護とともに養育のフォローが必要であるこ
とがうかがえました。
母子相談員が育児指導で関わった保健師から得た情報では、「育児の多くを父が担っ
⑤ 緊急一時保護2
事例に
学ぶ1
その1(PDF/1.2MB)(53ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 53ページてきたため、実際に入浴の際に母 1 人では子Eを支えきれず、湯船に頭までつからせて
しまう場面があったが、その際にも母は危険との認識がなく、焦りが見られなかった。
母のみでは事故に至るリスクが高く、子Eの安全が守られない可能性がある。」とのこ
とで、育児への日常的サポートが必要でした。
ショートステイ受け入れ後、関係機関の間で協議があり、母ときょうだいの母子生活
支援施設への入所決定とともに、現状況下での母の養育能力と予想されるリスクから、
子Eは一時保護委託への移行が決定しました。
(b)一時保護委託中の様子
一時保護委託中は、生活リズムや食事内容が整った環境下で健康状態は安定してお
り、他児との関わりの中で喜怒哀楽の表出も豊かになり、順調な発達の伸びをみせてい
ました。
ところが、ある日ぐずっている数秒間に痙攣発作をを起こしました。すぐに保護者や
保護前に預け先であった保育所等に確認しましたが、憤怒痙攣を時々起こしていた以外
に懸念される情報はありませんでした。
その後もよく観察していると、日によって数時間にわたって極端に覇気のないことが
あったり、時折いつもより歩行にふらつきが多くみられる状態に陥ることがあるなど、
子Eの様子が時々おかしいことに気づきました。
これらの症状から癲癇の可能性を疑い、すぐに検査を受けることになりました。
(c) 子Eの病気の受容と対応
憤怒痙攣とは異なり、数秒間の分かりにくい発作であったために、今まで母や保育所
では気づいていなかったようでしたが、検査の結果、はっきりと癲癇波がみられました。
その後は子Eの病気について受容と理解を促すために、検査から診断・説明、今後の見
通しと治療方針について、関係機関と乳児院の双方から職員付添いのもと、母子での通
院を重ねました。
癲癇の診断後、一旦は不安で気持ちが揺れていた母でしたが、やはり子Eを引き取り
たいとの意向は強く、児童福祉司が何度か面接を重ねる中で施設入所の方向性も提示し
たものの、意向は変わりませんでした。
(d) 一時保護解除まで
そこで一時保護解除に向けて、母 1 人での養育が難しいという根本的な課題を解決す
るために、具体的な調整を図ることとなり、改めて母子生活支援施設内でのフォロー体
制と施設近辺での保育所入所が検討されました。
母の養育能力の問題に子Eの喘息と癲癇が加わり、日常的なフォローにかかる負担が
その1(PDF/1.2MB)(54ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 54ページ大きくなると予想される母子生活支援施設、保育所はともに受け入れに難色を示したた
め、調整には時間を要しました。しかし、最終的にはそれぞれの受け入れ方針が決まり、
一時保護の解除が決定しました。
母自身の持つ養育の課題は、関係機関が代わりに担うことで、ある程度の解決を図る
ことしかできないため、乳児院からは、子Eがスムーズに次の生活環境に移行できるよ
う必要な(健康面を中心とした)情報をまとめ、最後に母と児童福祉司に渡しました。
ⅲまとめ
突然の一時保護委託の打診と待ったなしの預かり、乳児院の日常の一場面でもありま
す。本事例のようにショートステイ利用で子どもの情報が、事前に手元にあることは幸
いでした。子どもにとってより良い受け入れの準備ができます。しかし、緊急一時保護
の多くは、詳細な情報を持たないままです。感染症などリスクを考慮し、受け入れは子
どもの状態把握など慎重にきめ細やかに行っています。児童相談所の一時保護所を経由
しないため、子どものアセスメントは乳児院で行われます。その観察力が、子どもの隠
れた病「癲癇」を見つけ、早期発見、早期治療に結びつきました。
その1(PDF/1.2MB)(55ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 55ページ⑥ 入所打診を経て入所する場合
ⅰ.事例の概要
入所時年齢:生後 10 日目
退所時年齢:3歳0か月
入所理由:母、服役中により養育困難
家族構成:母、
祖父母(行方不明)、
異父きょうだい、戸籍上の父、
実父、子F
ⅱ.経過
(a)母の生い立ちと入所までの経過
母は、生後間もなく生みの母が失踪し、母方祖父母に引き取られています。祖父母は
年金生活で生活は苦しかったようです。中学を卒業すると、美容院などに勤め、その時
にであった男性と結婚、第 1 子(異父きょうだい)を授かりますが、DV と金銭トラブ
ルで離婚しています。その後、母は市外へ引っ越し、知人より「精神的に楽になれる薬」
と薬物をすすめられ使用して、逮捕されています。その後、薬を止めて働きはじめた頃
に、子Fの戸籍上の父と知り合い結婚、生活のやり直しのために第1子を連れて引っ越
しするものの、夫が逮捕されます。母は再度引っ越し、生活保護を受給しながら生活を
していた時に、夫から金銭を要求されるようになります。売春で別の男性との間に妊娠
が発覚しました。ただし、夫との婚姻関係は続いていることから、子Fにとっての実父
と、戸籍上の父は別人物です。
母の妊娠中には、子Fの実父と同棲していましたが、2 人とも薬物を使用し逮捕され
ました。その時に、第1子(子Fの異父きょうだい)は乳児院に入所することになりま
した。また、逮捕時に、実父は子Fの認知を拒否していました。母は、実父が「自分の
子ではない」と言っているので、今後、実父と連絡をとるつもりもなく、認知も求めな
い」と話していました。
収監中
祖父母行方不明
⑥ 入所打診を経て入所する場合
事例に
学ぶ1
その1(PDF/1.2MB)(56ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 56ページまた、子Fの戸籍上の父は、母の逮捕時には、刑務所に収監中でした。母から、婚姻
関係が続いている戸籍上の父に、離婚の意向を手紙で伝えたが応じず、「子Fを認知す
ると言われた」ことで、離婚をすることは一旦思いとどまったようです。
母親の収監中に子Fは生まれましたが、子Fの養育を依頼できる適当な者もおらず、
産科より直接乳児院に措置されることとなりました。
(b)母と子Fとの関係
母は、児童福祉司からの里親委託のすすめには抵抗をしめし、出所後は夫と共に、子
Fを育てるつもりであることを乳児院の家庭支援専門相談員に話していました。
服役中の母子面会では、はじめ子Fは大泣きし、立ち会った家庭支援専門相談員の傍
から離れず、母は困惑していましたが、「預けてごめんね」と涙する姿がありました。
家庭支援専門相談員は母の気持ちを汲みながら、子Fと母の面会時には、ミルクやオム
ツの交換を手伝いました。その中で、母も涙を拭いて、家庭支援専門相談員と一緒に子
Fを見ていきます。
その後、面会を重ねる中で、子Fは母に抱っこされながら笑みが見られるようになり
ました。また、母も嬉しそうに子Fを見つめます。慣れない空間にはじめは硬直を見せ
ましたが、母も上手にあやし、最後は家庭支援専門相談員に深々と礼をして退室されま
した。
家庭支援専門相談員は、子Fへのアタッチメントを芽生えさせるように、母子面会を
通じて、母をサポートし続けました。また、子Fの担当保育士や看護部長とは手紙での
やりとりを通して、母との関係を継続させました。母からの手紙では、1 日でも早く子
Fを引き取りたいという思いと、それに向けて 1 日でも仮釈放をもらえるように日々、
頑張っていきたいと綴ってあり、乳児院側も担当保育士が毎月、写真を同封した手紙を
送り、乳児院での子Fの様子なども丁寧に伝えました。
(c)複雑な母の思いに寄り添う
2 年後、母の仮出所が決定し、乳児院へ面会に来られました。
面会の中で、満期まで更生保護施設に入所し、仕事をしながら、休日に面会に来ると
話してくれました。また、引き取りに向けて、子Fと異父きょうだいの2人を育てるた
めに、様々な葛藤が背景にあるようで、これまでの歩んできた経緯を話してくれました。
更生保護施設に入所した母は面会に来られた時に、面会の後半に母自身の思いを整理
することを目的に、心理療法担当職員とのカウンセリングの時間を設けることになりま
した。逮捕までの行動や、その行動の引き金になったことへの思い、母方祖父母への想
い、再出発に向けての取組までなど、子Fの面会と並行して母の語りを丁寧に聴き取り、
話し合っていきました。
その1(PDF/1.2MB)(57ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 57ページまた、子Fの実父との関係は仮出所後も途切れたままで、連絡をとる意思もないよう
でした。子Fの戸籍上の父との婚姻関係は、子Fの認知を行ったことで続いていました
が、更生保護施設に入所してから数か月後に離婚をすることが決まりました。戸籍上の
父が子Fの面会に来ることはありませんでした。
(d)家庭引き取りに向けて歩む母
面会は初め、週 1 回のペースで始まり、子Fや異父きょうだいとゆったりと過ごせる
ような時間を作ることから始まりました。母子ともに緊張した様子でしたが、家庭支援
専門相談員や心理療法担当職員が仲介に入ることで、徐々に表情も出てきて楽しく過ご
すことができました。
面会中期では面会時間を延ばし、乳児院内にある家族訓練室にて、昼食やお風呂、オ
ムツ交換をしてもらうようになりました。その後、何度か面会を重ねた後、初の外出で
近くの公園に行きました。この頃から、母自身の気持ちも落ち着き、外出を数回繰り返
し、更生保護施設を出た後の生活についても、具体的な話が出るようになりました。
その後、母はまず7歳になった異父きょうだいととともに母子生活支援施設に入所す
ることになりました。母子生活支援施設では、安定して生活を送ることができていたよ
うで、子Fとの面会に異父きょうだいを連れて定期的に訪れていました。母は、子Fと
3人で生活したいと希望していました。
母子生活支援施設に入所してから半年後、子Fの引取にむけて初の外泊へと移行する
ことができました。外泊にあたっては、母が生活している母子生活支援施設の職員にも
同席してもらい、家庭支援専門相談員や看護部長より外泊中の生活記録のつけ方やアレ
ルギーなどの注意点を説明しました。また、子Fの発達や発育に関する資料や健康チェ
ック表などを合わせて母に渡しました。その後、初外泊から無事に帰り、母子ともに安
定した様子を確認し、2 泊 3 日の外泊を実施することになりました。母子生活支援施設
の職員からも、母子ともに順調な経過であることを確認し、連続外泊が実施されました。
そして、連続外泊を繰り返す中で、子Fを引き取れるスタイルが確保されたことを確認
し、その 1 週間後に乳児院を退所することに決まりました。
母子生活支援施設でも、母と子F、異父きょうだいともに順調な様子が見られ、地域
の保健師とも繋がることができたことから、母子生活支援施設に入所してから1年後
に、無事に退所となりました。
ⅲ.まとめ
本事例は、事前に社会調査が行われ、入所同意のもとに措置入所となっています。緊
急一時保護委託やとりあえず一時保護委託では、まずは子どもの状態把握、それから保
護者情報の整理となることがほとんどですが、この事例の中でも見られるように、事前
その1(PDF/1.2MB)(58ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 58ページの情報共有が関係機関でなされていると、その後の支援の連携もスムーズです。「受刑」
が入所理由を占める割合は約 5%ですが、乳児院では服役中から母子関係支援を行って
います。その支援の継続が、出所後の子育ての意欲にも繋がっていきます。
その1(PDF/1.2MB)(59ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 59ページ2.乳児院での生活(入所中のケアについて)
2 1 乳児院の一日
(1)願いを込めた一日一日
乳児院で生活する子どもたちは、24 時間 365 日 保育士、看護師等の専門の職員に愛
され見守られながら一日一日を過ごしています。乳児院の職員は、どんな経緯や環境の
中に生まれようとも一人ひとり、かけがえのない生命であることを自覚し、人間として
育つのにふさわしい環境をつくる努力をしています。24 時間施設で生活する子どもの情
緒の安定には、まず職員同士が支え合い、お互いの専門性を理解し合い、ほのぼのとし
た職場の雰囲気でなければなりません。これが子どもにとって、人間のあるべき姿とし
てのモデルとなります。子どもたちにとって養育する人が全く代わらないのが理想で
す。しかし、乳児院に入所すること自体がすでに養育者との離別、交代を意味しており、
このため、意識的に計画的に養育の一貫性と継続性を配慮していく必要があります。ま
た、入所したその日から早期に家庭復帰できるように支援が始まります。子ども、家族、
生活する地域のアセスメントを十分に行い、社会と連動した支援が大切になります。子
どもたちは、施設に入所する以前に心身の発育に課題を抱え持っている場合が多くあり
ます。この課題解決に向けての支援も重要です。支援の重要な視点に、子どもを権利の
主体者として育むことがあります。職員は、子どもたちと時と場所を共有し考慮しなが
ら、能動的で自己表現ができるような子どもの育ちを願って一日一日を大事に過ごして
います。
(2)一日の流れ(日課)
一日一日の養育支援は、日課によって展開されています。これは時間的な流れを示す
だけではなく、一人ひとりの子どもの「目覚めている」「眠っている」といった明確な
生理的状態に対応して食事、排泄、睡眠、清潔、衣類の着脱動作など生活習慣を位置づ
けていくことであり、一日の流れは、子どもにとっては連続したものです。固定的な時
間の流れではなく、そこには子どもの心身の状態(例えば、健康児、病児、虚弱児、障
害児、被虐待児であること)や入所直後か退所前かによっても配慮されなければならな
いものです。子どもの月齢差や季節によっても一日の流れは異なってきます。日課は子
どもの発達や要求にそった自律生活をおくるためにも、子どもの発達の状態を考慮し
て、一律の生活を押し付けない柔軟な日課が望ましいのです。日々の日課を義務的にお
くるのではなく、子どもたちの生活の流れのなかで、養育する職員とともにかかわり、
生活をともにする日課としたいものです。
その1(PDF/1.2MB)(60ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 60ページ【乳児院の一日】(全国乳児福祉協議会ホームページ掲載)
その1(PDF/1.2MB)(61ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 61ページ2 2 乳児院で働く職員
(1)乳児院で働く職員
職員は「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」第 21 条に規定されており、子
どもたちの生活に直接にかかわる看護師、保育士、児童指導員のほかに、間接的にかか
わる施設長、医師または嘱託医、栄養士、調理師、事務員の配置が義務付けられていま
す。また、専門的支援を目的として、家庭復帰に向けて家庭や児相などの関係機関との
連絡調整を中心に行う家庭支援専門相談員、心理に関する相談や支援を担当する心理療
法担当職員、被虐待児等に対応する個別対応職員などが配置されています。2012 年度
(平成 24 年度)からは新たに里親支援専門相談員が配置されました。
(2)チームアプローチと職員の役割
乳児院を利用する事例は多岐にわたるニーズを抱えています。そのためニーズに応え
られる専門性を備えた多種の専門職によるチームアプローチが必要になります。
乳児院の職員は、前述のように直接養育職員と間接養育職員がいます。前者は、日々
の子どもの養育を中心的に行う職員であり、保育と看護による専門的な養育スキルが求
められます。また、後者は、施設を取り巻く環境(ひと・もの・こと)を的確にとらえ、
保護者を含む地域社会との接点として幅広い知識と技術が求められます。ニーズを抱え
た子どもの発達を保障するためには、これらの職員が協働してはじめて支援が可能で、
そのための十分な人的環境の整備は不可欠です。とくに前述の乳児院の将来ビジョンの
実現にむけては心理療法担当職員の役割は重要です。
乳児院の心理療法担当職員の役割ですが、全乳協ではあえて心理職と位置づけこれま
で保護者対応を中心業務と考えられていた業務に加え、子どもに対する個別心理療法を
担当する仕事、実際の生活場面での子どもの発達状況全般を把握し、子どもにとってよ
りよい養育が継続的になされるよう、養育担当者へコンサルテーションを行うことなど
も重要な職務と期待されています。また、親子関係機能を高めるために保護者に対する
心理教育など子どもと良好な絆を結べるよう、関係性を支援することは、最も重要な役
割の一つと考えられています。また、乳児院将来ビジョンの展開過程における 3 つのア
セスメントにおいても、専門的な見地から所見を提出し、最も重要な見地から所見を提
出し、ケース会議に加わる必要があります。
これらの職務を鑑みると、心理職は乳児院での様々な生活場面でその専門性を求めら
れており、むしろ生活心理臨床を担当するジェネラリストとしての専門性が期待されて
います。心理職の対応すべき役割は、広範囲かつ複雑なものとなるため、外部のスーパ
ービジョンを定期的に受ける制度が確立されることが望ましいと考えます。
しかし、心理療法担当職員の配置率は 60%(2011 年度調査)です。「心理療法を行う
その1(PDF/1.2MB)(62ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 62ページ必要があると認められる児童又は保護者 10 人以上に心理療法を行う場合に限る」との
配置要件があり、都道府県の見解の相違もあり、配置されていない施設もあります。ま
ずは全施設に配置されることが急務です。
(3)職員配置
乳児院の職員配置については、2 歳未満児の場合、子ども 1.6 人に対して職員 1 人で
す。2 歳児は、子ども 2 人に職員 1 人。3 歳以上児は、子ども 4 人に職員 1 人となりま
す。毎年度 4 月 1 日の在籍する子どもの年齢構成で施設の職員数が決定する仕組みとな
っています。また、乳児院は夜勤を行う施設です。昼間に職員を手厚く配置することか
ら夜間が手薄になってしまいます。夜間に職員一人当がみている子どもの平均数は 11.2
人という調査結果(今田義夫ら『乳児院の養育体制・機能に関する調査研究』2010)が
あります。この調査で、望ましい夜間体制は職員一人に子ども 7.2 人でした。また、乳
児院に在籍する 3 歳以上児は、法律上でも「保健上、安定した生活環境の確保その他の
理由により・・・」と規定されているように、障がいや発達の緩やかさを抱えている場
合が多く個別のかかわりが必要なのですが、職員配置は 4 対 1 と減少するというミスマ
ッチの現状もあります。
2 3 乳児院の養育
(1)乳児院の養育
若年出産や経済的な問題など家庭内に複数のリスクを抱えたまま出産に至り、その後
の子どもの養育に多大な困難が伴うことが明確な場合、虐待の予防的な措置として早期
に乳児院に入所となる事例があります。こうした事例は被虐待体験等による身体的及び
心的ダメージが小さく、基本的には健康的な子どもたちです。しかし、0~3 歳という年
齢は、身体的発育の上でも、人格形成においても、その基盤形成がなされる重要な時期
であり、かつこの時期の不適切な養育のもたらす心身への影響は、その後の影響に比べ
れば極めて大きいものといえます。したがって、乳幼児には周囲の豊かな愛情と、応答
的で継続的なかかわりが必要です。乳児院の養育環境が適切であるためには、その体制
を十分に整備しておく必要があります。
乳児院における養育は、乳幼児が養育者とともに、時と場所を共有し、共感し、応答
性のある環境のなかで、生理的・心理的・社会的に要求が充足されることを基本としま
す。そして、家族や地域社会と連携を密にし、豊かな人間関係を培い社会の一員として
参画できる基礎づくりをはかることが大切にしています。
乳児院は、子どもにとって生活の場です。健康と安全に十分な配慮をしながら、担当
その1(PDF/1.2MB)(63ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 63ページ養育制を導入し、子どもを尊重し、愛着形成を重視した個別的なかかわりと、ともに育
つ子どもたちとの育ちあいを大切にする養育を行うように努力しています。
(2)新生児期の養育
新生児期からの乳児の養育機能は、乳児院本来の役割といえます。様々なリスクを抱
える生後 3 か月未満の赤ちゃんが入所児の 3 分の 1(32%)を占めている現状にありま
す。この新生児期からの養育は、高度の専門性が求められており、乳児院においては看
護師と保育士等とが協力して「保育看護」という新たな専門性を樹立して、乳児の健康
管理と発達保障に向けて努力しつつその養育にあたっています。
新生児期は生後 4 週間をいい、母の胎内という最高に心地よい環境のなかから外界へ
という環境の著しい変化を経て生きていくための基本的な能力を少しずつ働かせてい
く時期です。この時期、とくに求められるのは、養育者との同一感・一体感です。赤ち
ゃんと養育者の間で、情動調律や情緒的応答性を構築していくことで、愛着関係を樹立
していきます。赤ちゃんが大人に対して安心感を覚え、生き生きとして過ごせるような
かかわりを大切にしていくことが重要です。
発達の主な特徴は、体重や身長の伸びが著しく、日増しに体型が丸みを帯びてきます。
原始反射が強くみられ、まどろんでいるときなどに生理的微笑もみられるようになりま
す。しかし、昼夜の区別がまだなく睡眠のリズムが一定していません。授乳の時間は、
量とともに一定していませんが、徐々に 3 時間前後のリズムとなります。排尿・排便後
にぐずりなくことがあり、おむつ交換すると泣き止むようになります。
健康については、身体機能の未熟性が強く、病気にかかりやすいので、個々の発育・
発達状態を十分に観察します。個人差に応じた対応を心がけ、生命の危険に陥りやすい
ため、急変にも対応できるように、日常のようすを把握し、職員間の連絡を密にするよ
うにします。また、新陳代謝が盛んで皮膚が不潔になりやすいため、入浴や清拭をこま
めに行い、臍帯部やくびれなどが不潔にならないよう気を付けます。
授乳については、時間や量が一定しないことが多くありますが、個々のリズムや体調
に合わせた授乳を心がけます。授乳時は抱いて、目を合わせ、やさしくことばをかけ、
呼吸を合わせ、ゆったりとした気持ちで飲めるようにします。授乳後は吐乳・溢乳など
を防ぐために排気が十分にできるようにします。
睡眠については、昼夜の別がまだはっきりせず、授乳や入浴、おむつ交換などのほか
は眠っていることが多いため、環境条件や寝具や衣類などの清潔に気を配ると同時に、
睡眠時のようすを十分に観察します。
生活と環境については、一日の大半を眠って過ごすため、単調になりがちです。目覚
めているときは子どもの様々な思いや要求を読み取り適切に満たし、抱いたり、語りか
けたりすることで、職員とのかかわりが心地よいものとなるよう伝えていきます。心身
その1(PDF/1.2MB)(64ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 64ページ両面の未熟性を考慮して適切な保護や世話をすることが大切であり、安全の確保や病気
の予防にも努めます。気候に応じて温度や湿度などの環境上の保健に注意を払うととも
に室内環境にも配慮し状況に応じ適切に整えます。
(3)病虚弱児・障害児の養育
近年、乳児院の入所する子どもは病虚弱児や障害児が約半数を占めています。重症心
身障害児も多く入所しており、医療機関と異なり、機器も人材も乏しい乳児院での根本
的対策が必須となっています。乳児院の病虚弱児の増加は、被虐待児の増加も大きく関
与していますが、家庭での養育が困難で基礎疾患を持つ多くの乳幼児が、行き場を失い
乳児院に措置されているのも一因と考えられます。本来、障害がある子どもは、医療だ
けではなく保育も同等に必要で、双方を満足する医療機関は少なく、乳児院の医療面が
充実すれば、子どもたちにとってより好ましい生活の場となりえます。
乳児院における病虚弱児を観察すると、喘鳴を
はじめ、アレルギー食の必要な重症アトピー性皮
膚炎などアレルギー疾患の増加が顕著です。また、
低出生体重児も多く、とくに極小、あるいは 1、
000g未満の超低出生体重児が多い。低出生体重児
は、呼吸器疾患、発達に遅れ、易感染などが非常
に高い確率で発生しており、高度な医学的対応が
必要です。さらに、入所している障害児は、脳性
まひ児を主体に、重度の運動機能障害と重度の精
神遅滞の重複した重症心身障害児や肢体不自由児
を始め、染色体異常、先天性心疾患、視覚・聴覚
障害児など極めて多岐にわたっています。特に障
害が高度な子どもには、気道管理、酸素投与、頻
回な吸引、経管している子どももおり、これらの
子どもたちは養育上多くの課題があり、乳児院側の努力だけでは解決は困難です。
病院併設型乳児院のタイムスタディを用いた調査では入所乳幼児の 60%以上が ICU
病棟入室相当の重症患者と同程度のケアが必要であったと報告し、更にはこれらの施設
では乳幼児ごとの提供時間に大きな差が認められることから、職員の配置の必要性を指
摘しています。(東野定律ら『経営と情報 23(2)』2011)
しかし、全体の乳児院でみると、このように高度の医療が必要と思われる子どものう
ち、病虚弱児加算が適応されているのは半数に満たない状況です。さらに、年齢要件緩
和がなされた 2004 年(平成 16 年)以降年長児の増加は著しいのですが、この多くは深
刻な障害を有している子どもが多く、要件緩和がなされた本来の趣旨と異なった方向に
健全
46.8%
病 虚弱
児
24.5%
障害児
2.8%
被虐待
児
24.2%
その他
1.7%
入所児童の心身の状況
(n=3,089)
その1(PDF/1.2MB)(65ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 65ページ向かっています。
乳児に特異的な疾患として、乳児突然死症候群(SIDS)があり、その対策は乳児院に
とって従前から大きな課題でした。早期発見し、救命につなぐには、いずれの時間帯に
も、10~15 分毎のバイタルチェック(顔向き、呼吸のチェック)が必要となるが、現在
の職員配置では実現は困難です。
乳児院には医療的ニーズを有する子どもが多く、複数の病院や診療科へ通院は常態化
しており、各種のリハビリテーションも必要です。また、入院を要することも多くあり
ます。先の調査によれば、入所児は平均して一人年 42 回の通院を要しており、さらに
定員の 45%が入院を必要として、極めて高い入院率を示す結果となりました(今田義夫
ら『乳児院の養育体制・機能に関する調査研究』2010)。
近年の医療制度の変革の結果、小児科を標榜する医療機関の減少や急性期型への移
行、経済的理由から医療機関での長期の入院が好まれないため、未だ医療的ニーズを残
した段階での早期退院が多くなっていると考えられます。
(4)被虐待児の養育
乳児院の被虐待児の割合は著しく増加しています。虐待および虐待に準ずる入所理由
が 1989 年度(平成 1 年度)437 人(16.5%)であったのが、2010 年度(平成 22 年度)
には 1、004 人(32.4%)、20 年で 2 倍以上に増えています。しかし、ネグレクトは入所
後に判明することも多く、実態は更に高率と考えられます。虐待の死亡事例では、約 85%
が 4 歳以下であり、その 45%は 0 歳児と報告されています。また、被虐待児では望まな
かった妊娠例が多く、妊娠中の検診は未受診であった事例が高率で、虐待はすでに胎児
期から始まっていたと思われる事例が多くあります。大阪の未受診妊婦の調査からも、
未受診妊婦は母児の 69%に病的問題を認め、低出生体重児も 26%、新生児合併症は実
に 41%に及び流死産も多いのです。しかし、その多くは適切な受診により予防すること
ができたと報告されています。さらに、未受診妊婦と乳幼児虐待には貧困、孤立、精神
障害(知的障害を含む)、被虐待体験など共通の背景がみられ、未受診は胎児虐待とと
らえた問題意識を持ち対応することの重要性を強調しています(日産婦医会報 2011 1
月号)。
このように、乳児期はもとより、胎児期から苛酷な虐待環境を体験した子どもたちは、
中枢神経系をはじめ、各器官に重要な障害を受けやすく、結果として精神運動発達障害、
視覚障害、聴覚障害、感情表出障害など多くの障害を重複することが多くあります。ま
た、適切な愛着関係や母子関係など人との信頼関係の構築がなされないことから、養育
者との間に問題が生じやすく、将来の人格形成にも極めて深刻な影響を残す危惧があり
ます。一方、乳幼児の身体的、心理的回復力は予想を超えるものがあり、早期の適切な
介入と適切な支援によって、虐待の影響からの回復と健全な育ちが可能となります。
その1(PDF/1.2MB)(66ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 66ページしかしながら、多くの乳児院では虐待事例の急激な増加と慢性的人的不足から多くの
子どもが医学的対応や保護者の問題行動への対応に終始し、十分な個別的支援がなされ
ているとはいえません。
最近の乳児院の入所理由で、保護者の疾病、とくに母の精神障害(知的障害を含む)
は顕著に増加しており、全体の 20%近くを占めています。乳児にとって主たる養育者で
ある疾病をかけた母とのかかわりは、心身の発達、将来の社会性の構築に強い影響が懸
念されます。また、精神障害(知的障害を含む)の増加は、虐待の増加と正の相関があ
り、表裏一体の関連を成しているのです。入所後は、子どもに対する医学的・心理的・
養育的な専門性の高い対応力のみならず、保護者に対しても同様に専門性の高い支援が
必要です。虐待は再発しやすく、かつ致命率も高い難治性疾患として取り組む必要があ
ります。
乳幼児への虐待は、生命への危険も大きく、その後の人格形成におよぼす影響は甚大
です。ゆえに、虐待への対応は、乳幼児期はもちろん、妊娠中から始めることが極めて
重要となります。また、身体発育不良、精神運動発達の遅滞、感情表出の障害、養育者
との関係など広範囲な問題を引き起こすことが多く、医学的・心理学的・養育的な面
で専門的な対応が必要となります。
その1(PDF/1.2MB)(67ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 67ページ2-4 事例に学ぶ2
① 新生児の養育
ⅰ.事例の概要
母は離婚し母方曾祖母宅で生活していましたが、その間も離婚した前夫と関係を続け
ており、きょうだいに続いて子Nの妊娠、出産に至りました。母方曾祖父母から祖父母
宅を出て早く自立するように言われたのですが、出産後の母の体調がおもわしくなく、
子Nを一時的に預けて、体調の改善をはかりながら、今後の生活設計をどう立てていく
のか検討することになりました。複数の支援機関の協力を得ながら乳児院を経て、母子
生活支援施設にて親子での生活を再開するに至りました。
①入所時の年齢:生後 5 日目
②退所時の年齢:2 歳
③入所理由 :生活困窮、養育困難
④家族構成 :母方曾祖母、母、きょうだい、子N
ⅱ.経過
(a)入所までの経緯
児童相談所より「母子生活支援施設への入所を視野に入れ検討したいので、母の体調
が落ち着くまで赤ちゃんを預かってほしい」と、乳児院に入所依頼がありました。併せ
て、母の養育能力に課題があることも伝えられました。
(b)新生児の受入のための環境整備
乳児院では、子Nを退院と同時に受け入れました。生後 5 日目の新生児なので、環境
にも留意しました。乳児用呼吸モニターを装着したベッドを利用し、室内には加湿器・
空気清浄機を設置し、一定の室温(20℃以下にならない)に保ちつつ、午前・午後には
換気を行い、落ち着いた環境で安静にできるように配慮しました。
また、子Nの様子がいつでも確認できるよう昼夜見通しのよい場所にベッドを配置し
ました。哺乳量や体温、排便などをチェックして体調管理を行い、夜間は乳児用呼吸モ
① 新生児の養育
事例に
学ぶ2
その1(PDF/1.2MB)(68ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 68ページニターに頼ることなく職員が見回り、子Nの呼吸と顔向きの確認を徹底しました。
(c)新生児の養育
授乳は自律授乳とし、職員が一対一でかかわり、抱いて目と目を合わせて声をかけな
がら行います。
また、授乳後は排気を十分に行うこと、出ない時は頭部の変形に留意しながらも、顔
を横に向けて寝かせ、誤嚥しないように注意しました。また、吐乳や溢乳にも適切に対
処するよう留意しています。子Nが泣いた時には思いを受け止め、応えることができる
よう、抱いてスキンシップを行い落ち着けるようにしました。子Nの成長は順調で生後
1 か月を過ぎると追視や呼び掛けへの反応も早く、スキンシップをすると微笑みも見ら
れ、喃語も出ていました。定頸は生後 2 か月頃です。健康面も生後 6 か月にウィルス感
染症に罹患したのみで退所まで元気に生活することができました。
子Nが入所して 1 か月過ぎた頃、乳児院内でインフルエンザA型が発症した時も、罹
患児を隔離し、感染症マニュアルに従い、感染防止策(出入りの制限やガウンテクニッ
ク、殺菌灯での消毒、手洗いの励行)に努め、子Nへの感染を防ぐことができました。
入所当初は、母の体調が落ち着くまでの短期措置の予定でしたが、産後の体調がすぐ
れず通常の措置入所になりました。
短期措置から措置入所に切り替わる際には、改めてケース会議を多職種で開催し、ア
セスメントを行いました。とくに母の現状を確認し、面会などを通した支援について、
職員の役割分担や内容を確認したうえで、児童自立支援計画票を作成しました。
(d)面会を通した親子関係の支援
母やきょうだいの面会は途切れぬよう、しかし、母の体調を最優先に体調の良い時に
面会を重ねるよう配慮しました。面会は当初月に 1~2 回継続され、授乳やおむつ交換
など赤ちゃんとのかかわり、母のきょうだいとのやりとりも含めて見守り、助言、支援
を行い、母の体調に考慮しながら、面会の回数や外出、外泊等について段階をふみ進め
ました。
面会交流の中では、アタッチメントが育まれるように、また母の育児のスキルアップ
が図れるように、主任と家庭支援専門相談員が中心となり支援を行いました。
(e)関係機関との連携
入所時から、児相の担当児童福祉司や関係機関である行政とは連携を図りながら、家
族と関わってきました。母は、養育の意思はあるものの、子どもへのかかわり方や養育
には見守りと支援が必要でした。こうした家族状況が考慮され、母子生活支援施設への
入所の方針が出されました。母は事前に施設見学も行っています。
その後、母子生活支援施設の正式面接を経て入寮が決定し、まず母ときょうだいが入
その1(PDF/1.2MB)(69ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 69ページ寮しました。これまでの母子への支援で、子Nも母を認知し、声掛けに笑顔を向けるよ
うになっています。きょうだいも子Nを抱っこしたりあやしたりと関係が安定していき
ました。この愛着関係を育むためにも、母子生活支援施設の職員と連携し、生活状況を
確認しあいながら、子Nが 2 歳の誕生日に、母子生活支援施設へ移りました。
ⅲ.まとめ
乳児院には、生後間もなくの赤ちゃんが預けられており、本事例のように病院(産科)
を退院と同時に預かることも多く体験します。
新生児期には、体温調節が未熟であったり、黄疸が出現したり、体重が一時的に減少
したりします。哺乳量が増加してくると、体重は急速に増加してきます。人間の一生に
おいて、重い病気にかかったり死亡したりする危険性がもっとも高い時期でもありま
す。身体の心配としては、黄疸・嘔吐しやすい・頭血腫・緑便・便秘・心雑音・ダウン
症・低出生体重児(未熟児)などがあります。
したがって、受け入れにあたっては、温度や湿度や彩光、手洗いなど保健および生活
環境を整え、安心と安全を確保しながら赤ちゃんの養育を行います。赤ちゃんとのかか
わりは、生活支援としての「衣食住」が中心となります。抱っこ、ミルク哺乳、おむつ
交換、沐浴、可能であれば添い寝など、すべてが赤ちゃんにとっての心の栄養となりま
す。その一つ一つの支援を 24 時間職員が寄り添い、心を通わせていくことを大切にし
ています。
そして、同時に、母(家族)への働きかけも行っていきます。適切な支援に出会うこ
とで子育てのやり直しが可能なことも多いのです。乳児院では、家庭支援専門相談員が
中心となり、家族の絆が途切れぬように多職種や関係機関が連携して家族支援に取り組
んでいます。
また、乳児に特異的な疾患として「乳児突然死症候群(SIDS)」があり、その対応と
して本事例にも紹介されています、「乳児用呼吸モニター」の利用や顔向きや呼吸の有
無のチェックなど生命を守るための対応を苦慮しながら実施しています。
その1(PDF/1.2MB)(70ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 70ページ② 被虐待児の養育
ⅰ.事例の概要
父、母、子Hの 3 人家族です。母は、専業主婦で精神的に不安定なときがあり、精神
科受診歴もあります。子Hが 10 か月の時に、泣き止まないことにいら立った母は、寝
ていた子Hの足を蹴り、大腿骨骨折をさせました。受診した整形外科医が児相に通告し、
約 2 か月間の入院後、乳児院に入所となりました。
入所時から、児相の家族支援専門チームがかかわり、児童福祉司と役割分担し、親子
関係の修復サポートを行い、家庭引取となりました。
① 入所時の年齢:生後 10 か月
② 退所時の年齢:3 歳 1 月
③ 入所理由 :母による身体的虐待、母の精神不安、ネグレクト
④ 家族構成 :父、母、子H
ⅱ.経過
(a)入所に至るまでの経過
子Hは低体重で生まれたので、出産 1 か月後から保健福祉事務所が、家族に対し電話・
訪問・文書送付を繰り返したにも関わらず、母は保健師らの介入を拒否していました。
生後 10 か月の時、子Hが母に蹴られ、大腿骨骨折をして入院します(母子のアセス
メントと母への栄養指導が目的)。病院スタッフ付き添いのもと、母は毎日面会に訪れ
ましたが、自ら子Hに触れることはなく、子Hも母に抱かれると泣くような状況でした。
母は、生後 5 か月頃から子Hが泣くとカッとなり、頬を叩いたり、タオルで口を押えた
り、首を絞めたり、足を蹴ったりしていたとのことでした。
(b)子Hの特徴
1 歳までの健診では平均には程遠い低身長、低体重でしたが、大腿骨骨折の後遺症も
なく 1 歳 1 か月にて歩行ができるようになりました。入所当時、場所や人見知りをせず、
無表情で物おじせずに行動することからネグレクトを感じました。また、食事・着替え・
睡眠など職員と関わるとき、接触があるときに大泣きが目立ちました。
② 被虐待児の養育
事例に
学ぶ2
その1(PDF/1.2MB)(71ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 71ページ(ア) 指吸い
入所当時から右手薬指に大きな吸いダコがありました。観察すると、左手薬指を吸っ
ている時間が多く、右手は指を吸ったまま左手で玩具を触って遊ぶ姿がほとんどでし
た。困った場面でも無表情に指を吸っており、直接職員に解決して欲しいと訴える仕草
はありませんでした。楽しい!嬉しい!場面でも同様で、どんな感情も指を吸う事で消
化しているように感じました。
(イ) 食事・着替え・睡眠時の泣きとその対応
食事場面では、椅子に座る時から大泣きになり、抱っこや職員のひざに座らせての介
助でも大泣きして拒否します。しかし、好きな食べ物だと身を乗り出す時もあったので、
楽しい食事経験が全くなかったわけはないと思われました。
着替えの時も体を横にしただけで大泣きします。職員の前で無防備に横になり、防御
の一部である服を脱がされるのを恐れているかのようでした。
睡眠は、眠くなる感覚が不快のようでした。また、眠い時に職員に抱かれるのを嫌が
り、指を吸いながら一人で寝る事を好みました。寝入るまでは泣き続けますが、職員が
触れることを嫌がりました。
このことから、子Hにとって被虐待体験が接触への拒否につながっていることが分か
り、まずは子Hが恐怖を感じずに他者と関わるための体験を増やすことが重要と考えま
した。
具体的な取組みとして、子Hにかかわる職員をできる限り少人数にし、まずは、子H
が担当養育者の姿を見る機会が増えるよう、養育体制を作ることから始めました。見慣
れた大人(担当養育者)が、優しく声をかけてくれたり、笑いかけたりしてくれる場面
を増やすことで、子Hから担当養育者への信頼感や、かかわりへの安心感につながるよ
う配慮しました。その積み重ねによって、少しずつ担当養育者が子Hに触れたり、抱っ
こをしたりしても泣かないようになり、子Hからも抱っこやスキンシップを求めるよう
になりました。
(ウ) 言葉の発達・子Hの強み
担当養育者とのスキンシップやかかわりを、安心してできるようになってから、特に
絵本読みが大好きになった子Hは、1 歳 3 か月から有意語が増えました。
その後も、すぐに 2 語文、3 語文で話ができるようになると、他児や担当養育者以外
の職員との関係も一気に縮まりました。この頃からは、絵本の内容を覚え、職員に聞か
その1(PDF/1.2MB)(72ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 72ページせてくれるようにもなります。自分の気持ちを言葉にして父や母に伝え、やりとりがで
きるようになっていきました。
(エ) こだわり
食事中、手が汚れるのを嫌がり、自分の近くにタオルを置いておくことを希望し、一
口食べては手や口を拭き、飲み物をこぼさないようにすることに神経を使っていまし
た。母の「きれいに食べるのが理想」というこだわりに影響されているようにも感じま
した。外で遊んでいる最中も手や洋服が汚れることをさけ、一度でも転ぶと部屋に戻り
たい!手を洗いたい!と泣き出す時もありました。
(オ) 父母との関係
父は、子Hを愛しいと思う反面、母の機嫌を損ねない対応に精一杯でした。母は、自
分の理想とする母像や親子関係への思いが強く、子H自身を受け入れて理解することが
難しいようでした。
親子関係再構築のため、合同ミーティング(父母、児相、乳児院が参加)を重ねてプ
ログラムを実施し、面会期→外出期→外泊期と関係を深めていきました。子Hも成長に
伴い、泣きだけではなく、言葉で気持ちを伝えられるようになり、お互いの理解が深ま
り、父母が安心の対象になっていったようでした。
(カ)職員の取り組み
子Hが大泣きする場面で、子Hと過ごすことの多い担当養育者が、どのように対応し
たら子Hの反応がどうだったか等を、他職員とリアルタイムで情報交換し、子Hの理解
を深めていきました。
特に、被虐待の経験から接触を怖がって大泣きしていた子Hが、日々少しずつ担当養
育者を信頼し、反応が変化する段階での対応は、情報共有が非常に重要でした。できる
限り少人数の養育者の中で生活をする中でも、1 人の大人(養育担当者)だけではなく、
他にも自分を守ってくれる存在があるということを子Hが体験するために、担当養育者
との愛着関係が築けるようになった段階で、少しずつ他の職員と過ごす時間も作ってい
ました。
母とは、外出期から子Hの毎日の体温・食事摂取量・便・午睡・就寝時間などを記入
したものを、面会時に渡し、母からも相談事などの返信をしてもらうようにして連絡を
取っていました。また、毎晩母に電話をして、日中の様子を伝えました。毎日連絡をと
るための時間を作ることは大変なこともありましたが、それが母の安心と子Hへの理解
その1(PDF/1.2MB)(73ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 73ページにもつながったように感じました。
外泊期では、母子で過ごす時間が長くなるため、家庭支援専門相談員と担当養育者で
家庭訪問を繰り返し行い、子どもと過ごす上で生じる母の悩みや支援への要望を見落と
すことがないよう、相談と支援を行いました。
(キ)関係機関との連携
乳児院では、児相と協力してプログラムに沿って、面会期→外出期→外泊期→家庭引
取に向けて取り組みました。次のステップに進むごとに、合同ミーティングを実施し確
認作業を行っています。
合同ミーティングの主な内容は、①親子関係評価プログラムの提示(家族支援専門チ
ームは面会に同席・行動観察・親面接・検査)⇒ふりかえりと評価 ③虐待再発防止プ
ログラムの提示(面会期の育児スキルプログラム・ストレス日誌等)⇒ふりかえりと評
価です。
(ク)家庭引取後のネットワーク支援
家庭引取後も、必要で応じて、児相・家族支援専門チーム・乳児院・保育所・ファミ
リーサポート・地域と輪を広げ、連携してネットワーク会議を行い、見守り支援を続け
ています。
ⅲ.まとめ
虐待を受けて乳児院に入所した直後の子どもは、表情が硬かったり、笑顔が見られな
かったり、夜驚があったりします。また、親に抱かれても泣き続けるなど、大人を困ら
せる行動が多いものです。乳幼児の場合、自分が受けた体験を言語化できないので、手
がかかる子どもとして、根気強く、注意深く接していくことが大切です。授乳にしても、
睡眠にしても、泣いたりぐずったりしますが、根気強く関わっていると、笑顔を見せる
ようになります。もちろん、極端に傷つけられていると、日常の養育に馴染むまで相当
の時間を要しますが、乳幼児は回復が早いのが特徴でもあります。
子どもは、安全であることを体験した後、特定の大人との愛着関係が構築されていき
ます。特定の職員と一緒にいたがり、自分の要求を率直に出して、それを受け止めても
らうと喜ぶようになります。子どもが生きることとは、愛されることです。愛され、大
切にされる実感を持つことの基盤は、乳幼児期にしか構築できないものです。無事に家
庭引取となり乳児院を退所する場合であっても、あるいは乳児院退所後に里親委託、ま
たは児童養護施設への措置変更であったとしても、虐待を受けた子どものその後の人生
その1(PDF/1.2MB)(74ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 74ページは、厳しく険しいものと思われます。そうした人生を生き抜くためにも、「愛された実
感を持つことができる」乳児院での生活体験を大切につなげたいものです。
いつごろから赤ちゃんへの虐待が始まるのでしょう。「お産が苦痛で、出産した赤ち
ゃんが憎くなる。」「出産直後に、お産の疲れが酷く、お世話してくれる人もいないな
どから赤ちゃんがいることが負担になる。」「授乳がうまくいかず、授乳のたびに赤ち
ゃんが泣き叫び、母も不安になる。」「幼児期になり、自己主張し始めると、どのよう
に対応して良いかわからなくなる。」など、母が育児で困難を感じるときの気持ちはわ
かりやすいものです。虐待の連鎖や成育歴上の理由もあるでしょうが、むしろ、その時
身近に支援者がいれば解決できたかもしれないと思うこともたくさんあります。しか
し、母は赤ちゃんが自然に可愛くなるものだと思い、自分が母としての自覚がないと悩
んでしまいます。どんな状況でも母性が芽生え、子どもが可愛くなるという前提を捨て
て、母への支援者がいない状況を理解することが必要です。母になれないことを責めな
いで、何で困ったかを理解し具体的に解決方法を一緒に考えることが大切であると思い
ます。親との関係が悪化している場合は、再構築のために、まず養育者との愛着関係が
成立し、子どもが愛着行動を示すようになることが必要です。それを次第に親に移し変
えていくプロセスが重要なのです。子どもが自然に親に手を差し伸べて、抱っこをせが
むようになり、一緒に安心して過ごすことができるようになるまで、交流を継続してい
きます。この間に親から様々な相談が入り、親の状況も刻々と変化しますが、子どもが
可愛くなれば、それを中心にして生活再建の見通しを立てることができます。
また、子ども・家族への支援は、乳児院の養育者並びに各種の専門職と、児相をはじ
めとして地域の関連機関との密接な連携の中、支援方針が適正なものとなるようすすめ
られることが重要です。
その1(PDF/1.2MB)(75ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 75ページ③ 病虚弱児の養育
ⅰ.事例の概要
母は、若年未婚での出産であり経済的にも苦しく、養育を拒否しています。妊婦健診
は受けておらず、救急車内で出産しました。極小低出生体重児で陥没呼吸があり、NICU
に入り、DPAP で呼吸管理をされました。出生後 23 日目に酸素吸入にかわり、退院時
まで施行されました。ミルクも経鼻カテーテルで注入されていました。眼底出血なく、
中枢神経評価では異常はありませんでした。
① 入所時の年齢:生後 2 か月
② 退所時の年齢:2 歳 11 月
③ 入所理由 :若年未婚、経済困難、養育放棄
④ 家族構成 :母、子I
ⅱ.経過
(a)病虚弱児の受入-情報収集-
入所前に、とくに母の様子、疾患、薬物使用の有無及び出産時の様子、在胎週数、出
生体重、出産後の対応について病院医師、担当看護師から情報提供を受けました。
入所時、まず母についてアセスメントし、子どものバイタルチェック、計測、全身の
状態を観察した後、付添の保健師、母にわかるように、今の状態について記録を見せな
がら説明しました。入所の写真撮影をしました(母と子ども、子どものみ)。バイタル
チェックは異常なく、全身の皮膚乾燥が著明でした。また、鼠蹊ヘルニアがありました。
ミルクについては、少量ずつ 5~6 回経口摂取していました。また、入所時健診として、
小児科医の観察のあと、状態(現在の病状、今後起こりうる状況)について、母と保健
師に説明がなされました。保育士、看護師の担当養育者を決めました。
(b)修正月齢に沿った保育・看護計画
4 か月健診は、修正月齢で 2 か月相当、哺乳力は上がりますが、定頸できていないた
め、養育、看護計画に定頸を促すため、腹臥位、側臥位の練習、在胎週数や出生時の状
態から呼吸機能が低いと考え、ベビーマッサージ等で、全身の循環を良くし、呼吸を促
③ 病虚弱児の養育
事例に
学ぶ2
その1(PDF/1.2MB)(76ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 76ページし、皮膚抵抗を強めました。感染予防を最優先し、シナジス®の定期接種を計画しまし
た。季節が寒くなり、熱発、下痢、喘鳴、咳、鼻汁が出ることが多くなったので、早め
の受診、吸入、吸引をして悪化させないように注意しました。体位変換、環境(室温、
湿度)に気を付け、水分量をチェックし、体重管理を行いました。看護計画には、状態
が悪化したときの対応をたてておき、夜間でもすぐに対応できるようにしておきまし
た。毎月の計測だけではなく、体重の増加状況により、週に 2 回、3 回として変化を確
認しました。養育としては、一対一のかかわりを多く持ちました。この間、母の面会が
ないため、病状や発育状態を児相の担当児童福祉司から伝えてもらい、写真を送りまし
たが、母からは連絡はありませんでした。授乳量は、順調に増量でき、5 か月には離乳
食を開始しました。
(c)発達曲線に追いつく
7 か月には、鼠蹊ヘルニアの手術を施行しています。食事量、運動量が増えるように、
遊び場を広い場所に移すと、体重増加が順調となり、9 か月には、発達曲線の平均下位
に入るようになりました。この頃、よく笑うようになり、母に状況を伝えると、月に 1
~2 回の面会に来られるようになりました。母の面会時は、必ず子Iが泣くため、母が
他児と遊んでいる所に子どもを近づけるようにしました。乳児検診日を、母に伝えます
が、一度も来院はありませんでした。
1 歳 2 か月頃から、月に 1 回は熱発、喘鳴が出るようになり、肺炎で入院することも
ありました。呼吸練習や運動量を増やし、体重の維持に留意しました。養育では、様々
な玩具で遊ばせ、経験を増やしていきました。言葉の遅れがあったため、発語を促し、
大きな声を出させ、笑わせるようにしました。しかし、よく笑いますが、声はなかなか
出ませんでした。歌を取り入れ、リズムのある歌を一緒に唄うことで、徐々に言葉が出
るようになりました。体調をよく観察し、予防接種をすすめていきました。
(d)食事への興味
1 歳 6 か月を過ぎた頃から、食事に興味が強くなり、スプーン練習の回数を増やしま
した。担当養育者が誰なのかの理解はありませんが、甘えさせてくれる人は誰かよくわ
かっているようです。言葉の数が増えたり、時々歌のように話したり、物事の理解が増
えました。2 歳を過ぎた頃から、2 語文も増え、2~3 か月に 1 回は熱発しても、3~4
日で解熱し、喘鳴が出ることもほとんどなくなりました。
2 歳 5 か月頃から、体重・身長は平均値に追いつき、病気にもほとんど罹らなくなり、
外出したり、遠足に出かけたりしています。母から家庭引取の意向はなく、子どもの養
育状況を踏まえ養育里親への委託となりました。
その1(PDF/1.2MB)(77ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 77ページⅲ.まとめ
極小低出生体重児であったため、まずは感染予防を第一とし、シナジス®注射や予防
接種を、体調を確認しながら的確に行いました。出生時の体重も大切ですが、在胎週数
に気をつけ、子どもの成長の程度をしっかり把握しておくこと、またその状態を正しく、
正確に家族に伝えることが重要です。病虚弱児はとくに母胎管理についての情報を知っ
ておくことで、なぜ体重や在胎週数が伸びないかが分かることもあり、近年多い薬物離
脱症候群の子どもや、喫煙をしている母から生まれた子どもへの対応が速やかに行えま
す。
全乳協では、胃食道逆流症、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、易感染傾向、てんかん
等、定期的に小児科受診を必要とし、個別のケア、治療が必要な子どもを病虚弱児とい
っています。病虚弱児の受け入れにあたっては、医療的な支援を求められることが多く、
24 時間にわたって施設内に看護師が配置されていることが望ましいです。現実の職員配
置(看護師は、乳児 10 人の乳児院には 2 人以上、乳児が 10 人を超える場合は、おおむ
ね 10 人増すごとに 1 人以上)では、看護師を 24 時間配置するのは難しい現状です。本
事例のように医師が常駐している医療型の乳児院は少なく、多くの乳児院は嘱託医との
契約です。嘱託と密接な連携を取る体制を保持すること、夜間休日などに子どもの状態
が悪化した場合の医療機関との連携について日頃から整備しておくことなどが重要に
なってきます。
望んでいなかった妊娠の場合、胎内にいる子どもを痛めつけている場合があります。
乳児院で出産直後から赤ちゃんを養育していると、何となくぐずりやすい子どもと、満
足しやすい子どもの違いが気になります。ぐずりやすい子どもを見ていると、胎内での
状態が影響しているとしか思えないこともあります。もちろん、証明できるわけではあ
りませんが、出産直後から母と子どもの面会を見ていると、母が不安定な場合、わずか
な面会時間でも、赤ちゃんは不安定になります。乳児院では母子のつながりが非常に強
いことを痛感しています。赤ちゃんは、身体すべてで感じているであろうと思われます。
胎内にいた時から成長に障害があったとするなら、出産直後から健康な子どもの数倍も
手をかけて育てていかないと取り戻せないと考えます。望まれない出産による未熟児が
多いとも聞きます。周産期における母子への支援が重要です。また、児童福祉関係者が、
「胎内虐待」とも呼ばれるこのような課題にどう対応していくかということも考えてい
かなければなりません。
その1(PDF/1.2MB)(78ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 78ページ④ 重度の病虚弱児の養育
ⅰ.事例の概要
出生直後の診断で心疾患が認められ、術後の経過により気管切開を必要とされました
が、両親の同意を得られず、病院から医療ネグレクトとして通告されました。親権喪失
申し立て、保全処分が決定され、児相が親権代行し、気管切開術が行われました。術後
経過は良好で退院可能でしたが、家庭での養育は困難であり、家庭環境調整のため入所
となりました。
① 入所時年齢:1 歳 6 か月
② 退所時年齢:7 歳 10 か月
③ 入所理由 :医療ネグレクト(28 条ケース)
④ 家族構成 :父、母、きょうだい、子J
ⅱ.経緯
(a)入所に至るまでの経緯
母は、妊娠中の異常なく、出生後の診断でチアノーゼ性の心疾患が発覚しました。生
後 2 か月、7 か月時に心臓の手術を行いましたが、その際に合併症により生命維持のた
めには気管切開術が必要となりました。医師から幾度となく説明を受け、父は気管切開
を承諾するような様子でしたが、母は納得のいかない様子でした。話合いは平行線のま
ま母の承諾は得られず、医療ネグレクトとして病院から児相に通告し、児相が親権を代
行し、気管切開術が行われました。母は病院側の対応に不満を抱きながらも、子Jの面
会には来院していました。退院可能な状態となりましたが、家族は気管切開をしている
限り自宅に引き取ることはできないという意向で乳児院入所となりました。
(b)医療型乳児院での生活
子Jは、新生児や脳性麻痺、経管栄養を必要とする医療的ケア度の高い、看護師のみ
が配置されている保育室で生活しています。心不全徴候は認めず、心臓の状態は安定し
ていましたが、入所後から気管支炎や肺炎を反復し、病院への入退院を繰り返していま
④ 重度の病虚弱児の養育
事例に
学ぶ2
その1(PDF/1.2MB)(79ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 79ページした。
成長発達において、やや遅れはありましたが、粗大運動は歩行可能であり、微細運動
や心理面でも、大きな問題は認めませんでした。食事に関しては誤嚥防止のためとろみ
をつけていましたが、経口摂取は可能です。気管切開により発語はありませんが、表情
や意思表示ははっきりとしています。入院生活が長期に亘ったためか、ひとり遊びが苦
ではない様子でテレビを観ることを好んでいました。またどんなスタッフにも人見知り
や拒否する様子は見られませんでした。祖父母や家族そろっての面会にも笑顔が見ら
れ、嬉しそうにしていました。しかし、母のみの面会には表情を強ばらせ、やや緊張し
た様子が見られました。
(c)安全に配慮した養育
子Jは気管切開部が常に気になる様子であり、違和感があるのか気管カニューレをい
じったり、固定している紐をほどいてみたり、気管カニューレの先端部分に装着してい
る人工鼻を外したりします。このような行動は医療事故につながるリスクが高く、安全
に配慮したケアがより強く求められます。とくに気に入らないことがあったり、養育者
の気を引きたかったり、叱られたりするとわざと外して人工鼻を投げる行動がみられま
した。人工鼻を外してしまうと気管口からの直接的な痰の飛散やまた加湿が保てないこ
とにより気管内分泌物の粘度が高くなり、カニューレ内閉塞の可能性と感染リスクが高
くなる状態にあります。これらの行動に対して発達を考慮したケアの工夫と医療的管
理、また生活面においても遊びや心理的なケアが必要となってきました。
乳児院では子ども対養育者を一対一とする担当制を基本としていますが、子Jは看護
師と保育士のふたり担当制で対応していくことにしました。日中は看護師と保育士双方
が配置されている部屋で過ごし、処置が必要となるときや睡眠時は看護師のみが配置さ
れている前述の所属している部屋で過ごすといった体制で生活していくことになりま
した。
(d)医療に配慮しつつ発達を支援する
しかし、子Jの年齢が 2 歳、3 歳と上がっていくにつれ、1 歳前後の子どもたちが遊
び相手ではもちろん物足りなさを感じ始め、低月齢の児に対して意地悪をしたり、養育
者にわがままを言ったり、困らせたりしていました。そして、それは 3 歳の心理判定で
もアンバランスな結果をもたらし、適切な養育環境を検討する良い機会となりました。
子Jと同年齢の子どもと遊ぶ経験をさせていく必要性があるのは承知していました
が、その子どもたちが所属する幼児部は看護師が配置されていません。子Jが遊びに参
加するためには、子Jの状態を把握している養育者の付き添いが必要となります。検討
その1(PDF/1.2MB)(80ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 80ページの結果、勤務調整を行い、週 3 日保育士とともに幼児部の遊びに参加することが可能に
なりました。また、週 1 回の面会ボランティアの利用や心理療法担当職員による個別保
育、グループセラピーといった発達支援も整備されていきました。しかし、体調面は常
に不安があり、肺炎や気管支炎の感染リスクは高く、体調不良の徴候があれば幼児部の
遊びには参加せず、安静を優先します。また子Jの体調が良くても、幼児部で体調不良
の子どもがいれば、参加を中止します。このように体調により制約はあるものの、生活
面でメリハリをつけることも可能になってきました。
(e)家族との関係
乳児院に入所後、2 歳 6 か月で心臓根治術を行いました。面会は月 2 回程度定期的に
行われてきました。子Jが 2 歳を過ぎた頃から家族の行事のときは外泊するようになり
ました。両親は共働きであり、子育てと仕事の両立で余裕がなく家庭引取りの意向も出
てこない中、祖父母より外泊の申し出が出されるようになり、面会や外泊すべて祖父母
がメインになりました。子Jのケアに関しても祖父母に指導します。体調を崩しやすい
ことには変わりなく外泊が中止になることも多々あります。
家族とのかかわりはあるものの家庭引取は困難であり、また乳児院での発達支援にも
限界があります。子Jにとってよりよい養育環境を整えていくには、課題が山積してい
ます。
ⅲ.まとめ
事例②-3、②-4 は医療型乳児院をモデルとした事例です。生命を守る医療的かかわり
と育ちを保障する療育、そして関係性を育てる養育と子ども同士の育ちあい、多くの課
題を抱えている子どもは、個別的にその課題に応じたケアが必要となります。しかし、
その課題ゆえに親との絆が途切れ、また次の生活の場を見つけることが困難です。障害
児施設や医療型障害児入所施設への措置変更においても、入所が可能となるまで入所待
ちを理由として乳児院の入所期間が延長されることも少なくありません。
乳児院は全国で 131 か所(平成 25 年 4 月 1 日現在)ありますが、医療型乳児院は極
めて少ないのです。しかし、病虚弱・障害の子どもたちの入所は今後ますます増加し、
現在の乳児院の能力を超えることが予想されることもあり検討が必要です。
その1(PDF/1.2MB)(81ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 81ページ⑤ 長期入院児の事例
ⅰ.事例の概要
出生後にダウン症が判明し、両親は養育を放棄し、重度の疾病で、手術、療養のため
長期の入院生活を体験し、退院したものの障害児施設が満床で措置変更できず、乳児院
での生活が長期化しました。
① 入所時年齢 :生後 3 か月
② 退所時年齢 :6 歳 11 か月
③ 入所理由 :子Kはダウン症であるため養育を拒否
④ 家族構成 :父、母、きょうだい、子K
⑤ 子Kの既往歴:先天性の心疾患、急性骨髄性白血病
ⅱ.経緯
(a)入所に至るまでの経緯
両親は、子Kが出生後ダウン症であることを知り、養育を強く拒否したため、生後 3
か月で乳児院に入所することになりました。命に係わる心臓疾患の手術も「早くこの子
の人生を終わらせたい」との理由で同意しませんでした。児相と施設は主治医とともに、
両親から何とか手術の同意を得るという状況でした。
(b)最初の入院、手術(入院期間 61 日間)
心臓手術に対応できる専門総合病院へ入院することになりました。病院は、遠方で施
設から車で 2 時間を要します。子Kは、生後 3 か月であり完全看護での入院受入れ可能
とのことで、担当養育者は、週 1 回のペースで、病院へ紙おむつや着替え等を届け、病
院側からの状況報告を受ける形で対応しました。当然、両親は病院に訪れることはあり
ませんでした。心臓手術は無事成功し、退院後 6 か月間は、総合病院への心臓フォロー
受診を継続しながら、他の入所児と同様の生活を送ることができました。
⑤ 長期入院児の事例
事例に
学ぶ2
その1(PDF/1.2MB)(82ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 82ページ(c)二度目の入院、手術(入院期間 186 日間)
生後 11 か月を経過した頃、急に子Kの顎下が腫れあがり、「骨髄性白血病の疑い」
と診断でそのまま緊急入院となりました。あまりに急な出来事でしたが、治療開始が遅
れれば命にかかわるとのことで、早急な対応を求められました。
乳児院では、治療が長期に渡ることと、がん治療に対応できる総合病院へ転院するた
め、完全看護で入院対応が可能か、児相や県へ相談し、近隣県も含めて受け入れ病院を
探しました。
しかし、「骨髄性白血病はリスクの高い病気であることから、保護者不在での完全看
護の対応は困難」との返答でした。病状の進行が速く、一刻も早く抗がん剤治療を開始
しなくてはならない状況で、他を検討する猶予はありませんでした。
そこで、施設の職員と話し合いを持ち、「子どもの命を大切に守ろう」「職員全体で
協力して病院付き添いを行おう」との決意を固め、他県の総合病院での入院・加療が始
まります。なお、心臓手術の経緯もあり、治療についての親の同意は得られました。入
院期間 186 日間、全て 24 時間体制で乳児院職員が付き添いました。
(d)子どもの命を守るため
入院付き添いは、24 時間交替で担当職員と 3~4 名の職員を中心にローテーションを
組み行いました。付き添いの職員は、乳児院の最寄り駅から総合病院まで、片道約 1 時
間を電車で通います。家政婦付き添いなども検討したものの、白血病という病気のため、
入院中の厳重な感染予防など、細かい配慮事項や投薬の確認などが煩雑で責任が重たい
ことや、子Kの愛着形成の面から考えたときに、現実的ではありませんでした。
しかし、本乳児院の勤務者が 1 日に付き実質 2 名不在となることから、交替で休日出
勤日を作ったり、事務職員がフォローに入ったり、パート職員が出勤日を増やすなどの
対応をとり、職員相互の理解と協力を得ることで何とか乗り切ることができました。
長期にわたる入院付き添いを経験した職員は、子の長期入院に付き添っている母たち
の姿や、お互いへの気遣いに励まされ学ぶことも多く、「子どもを慈しみ育てる」とい
う視野を広げる機会にもなりました。
また、付き添い中に精神的に不安定な母の見守りを、病院の看護師や児童福祉司と連
携を取って行うこともありました。
(e)長期入院に伴う課題
入院付き添いに伴う費用面では職員の超過勤務手当、病院での宿直手当、病院までの
交通費などが挙げられます。当初、県からは「措置費内で対応してほしい」との意向で
したが、『こうした事例を一施設の職員の努力だけで何とかしなさいということなの
その1(PDF/1.2MB)(83ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 83ページか?一緒に考えてほしい』と、繰り返し現状を訴え、最終的に県単独費用として認めら
れることとなりました。(ただし病院までの交通費は認められませんでした。)
(f)退院後も見守りでの生活
その後、子Kは無事に退院し乳児院での生活を再開しましたが、厳しい冬の寒い時期
は、感染症に罹患しないよう細心の注意を払いました。障害児施設が、満床で措置変更
ができず、空きができるまで、乳児院での生活を継続しました。
ⅲ.まとめ
病虚弱児や障害児の入所増加は、養育の困難さと同時に、通院や入院の件数増加、付
き添い職員の問題へと波及しています。2011 年度(平成 22 年度)の調査では、乳児院
入所児の入院率は 43%でした。1999 年度~2000 年度(平成 11 年度~平成 12 年度)の 2
か年の入院率が 38%でしたので、10 年間で 5%も上昇していることになります。一般家
庭の 2 歳児の入院率は 20%であり、一般家庭に比べて乳児院の乳幼児ははるかに罹患率
が高く、かつ入院を必要とするように重症化しやすい現状があります。
その1(PDF/1.2MB)(84ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 84ページ⑥ 小規模グループケアの養育№1
ⅰ.事例の概要
保育所で背中に叩かれたような傷と痣を確認し、児相に虐待通告がされました。乳児
院入所後は、子Lが落ち着いた環境の中で、少数の職員と過ごす時間を増やすために、
小規模グループケアで生活しました。小規模グループで、限られた職員との間での愛着
関係を築き、その後は、児童養護施設へ養育を繋ぎました。
① 入所時年齢:3 歳 4 か月
② 退所時年齢:4 歳 1 か月
③ 入所理由:身体的虐待
④ 家族構成:父、母、子L
ⅱ.経過
(a)入所までの経緯
子Lが通っていた保育所から、棒で叩かれたような傷と痣が確認され、児相へ通告さ
れました。父の虐待が疑われましたが否認したために、乳児院へ一時保護委託されるこ
とになりました。
その後、否認していた父が暴力を認め、一時保護委託から措置入所に切り替わりまし
た。
子Lは、一時保護当初から、抱っこや職員の接触を極端に嫌がり、大人とのかかわり
を怖がる様子を見せたため、少数の職員の中で過ごすことの必要性を感じ、措置入所に
切り替わった際に、小規模グループケアで生活することにしました。
(b)入所時の子Lの特徴と、職員によるかかわりの入り口
職員に対しては、どんなかかわりもまず拒否していました。
他児へのかかわりは常に攻撃的で、乱暴な言葉で叫んだり、奇声をあげたりして関係
性の築きにくい子どもでした。
遊びは「戦いごっこ」が主で、「勝ち負け」や「善か悪」で表現されることが多く、
⑥ 小規模グループケアの養育№1
事例に
学ぶ2
その1(PDF/1.2MB)(85ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 85ページ戦っている相手が大人でも子どもでも力の加減をせず、常に自分が勝つことに拘ってい
ました。また、お絵かきでは 2 人の顔を描き、「かっこいい人」と「悪い人」と言い、
悪い人を黒く塗りつぶすこともありました。
入所当初、抱っこや入眠時に背中を擦るなど、日常の触れ合いを極端に嫌がり、職員
からの声掛けには反応せず自由に動き回っていました。そこで、担当養育者が、子Lへ
の声掛けを続けるとともに、反応がなくても子Lの視界にできる限り入っているよう見
守りとかかわりを充実させました。徐々に、担当養育者の声に子Lが反応し顔を向ける
ようになり、その後、担当養育者が近づくことを受け入れたり、自ら近づくような場面
が出てきました。
その頃になると、担当養育者が子Lに触れようとしても嫌がらない場面が見られまし
たが、突然拒否することもあったり、その後に突然甘えたり、攻撃したりするなど、不
安定さがみられました。担当養育者は、子Lが嫌がる場合には、接触や無理に近づくこ
とはしませんでしたが、常に視界に入るよう見守りを行っていました。
また、トイレでの排泄はできましたが、失禁が増え、トイレの中でうんちで遊ぶなど、
極端に退行する様子が見られました。
(c)職員のかかわり
(ア)養育グループ職員のかかわり
入所時の子Lの被虐待体験の影響等をアセスメントした上で、支援方法を決め、小規
模グループの中で統一感のあるかかわりを日常の養育の中で意識しました。
グループ職員は、子Lに対する働きかけとその反応をはじめ、日々の様々な情報を記
録したうえで共有し、定期的に話し合いの場を設けました。
また、月 1 回のケース会議では、スーパーバイズを受け、その後アセスメントをし直
し、支援方針をまとめ、グループ職員で再度共有し、日常の養育に取り入れるようにし
ました。
(イ)愛着形成を目指して
小規模グループケアでの養育では、担当養育者とゆっくり過ごす時間を意図的に設定
し、担当養育者と子Lが沢山の経験を共有できるよう配慮をしました。それを繰り返し、
担当養育者が子Lにとって特別な存在になると、担当養育者にしか見せない甘え方やよ
り強い拒否行動等、試し行動が見られるようになりました。
担当養育者に対して接触を嫌がらなくなり、関係性ができたのち、担当養育者以外の
グループ担当職員に対しても感情を表現できるようになったため、苛立つ様子が見られ
その1(PDF/1.2MB)(86ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 86ページたら抱っこして子Lの気持ちを察し、攻撃的で危険な行動をする前に気持ちを落ち着か
せる対応を、グループ内で統一しました。
小規模グループケアでは、少数のグループ職員と子どもとが過ごしていることもあ
り、限られた養育者が自分に対して同じ対応をすることで、子Lの混乱が減り、徐々に
担当養育者以外のグループ職員との触れ合いや声掛けも、受け入れるようになりまし
た。
(ウ)子Lの空間を設定
子Lは、他児が近付くと叫んで威嚇するため、マットや椅子を利用して子Lが安心で
きる場所を設定しました。その場所で過ごすことで気持ちを落ち着け、好きな遊びに集
中できる時間を確保することで、他児とのトラブルを未然に防ぎました。
(エ)グループ内調和への対応
子Lとグループ内の他児が衝突したときは、子Lを抱っこして落ち着かせた後に、必
ず他児とも一対一で向き合い、気持ちを代弁しました。子Lのケアと並行して、他児へ
のフォローを徹底することで、グループ全体の安定を保つことができました。
(オ)社会性への対応
遊びというと戦いごっこになり、行動が激しくなり見境がなくなるため、違う遊びを
提案して展開していく方法を伝えました。たとえば、ブロックの場合は職員がブロック
で様々な形を作ってみせる、人形の場合は人形を使って一緒に遊び、勝ち負けではなく
やりとりすることを伝え、様々な遊びの楽しさを共有しました。
(d)心理療法担当職員のかかわり
「心理療法担当職員からの情報をグループ職員が共有する」
入所 1 か月後から心理療法担当職員のプレイセラピーを実施することになりました。
(ア)居室内での子Lの生活の様子を観察する
(イ)セラピーの実施(9 月~翌年 3 月)
セラピー内容:遊戯療法内で箱庭を選ぶことが多くありました。
回数:週 1 回、50 分、全 25 回
内容は、ノートを通してグループ職員と共有しました。
その1(PDF/1.2MB)(87ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 87ページセラピーでは、善と悪のみの表現から、助けてくれる存在が子Lの意識に現れ始めま
した。また、ケガをしたものを手当てする役割など、やりとりの多様化も見られるよう
になりました。
(e)子Lの変化
(ア)スムーズな感情表現
担当養育者を中心に、少数のグループ職員との関係性が安定したことで、明らかに拒
否的な反応が和らぎ、素直に甘えるようになりました。
また、感情を言葉で表現することも増えました。入所当初は、言葉にできない思いを
乱暴な行動で表すことも多くありましたが、「○○きらいなの」といったように、怒り
や不快を言葉で伝えるようになり、乱暴な言動が軽減しました。
(イ)社会性の変化
担当養育者や、その他のグループ職員、同グループ内で生活する他児に対し、言葉で
思いを伝えたり、子Lにとって安心して関わることができるようになったことで、遊び
の幅が広がりました。
遊びの中でも、勝ち負けや善と悪の表現が軽減しました。ブロック遊びは、バスや飛
行機、家や人を組み立て創作するようになり、お絵かきは色鮮やかになり、担当養育者
と子Lが手を繋いでいる姿まで描くようになりました。戦いごっこはルールを理解し他
児への攻撃に繋がらなくなり、体を動かす遊びとして職員を相手に楽しめるようになり
ました。
(ウ)他児との関係性の変化
他児とのかかわりを極端に嫌がっていた子Lでしたが、子Lにとって安心して甘える
ことのできる大人(担当養育者)ができてから、グループ内の他児を可愛がったり、一
緒に遊んだり、心配したりするようになりました。一方的なかかわりも多少ありました
が、そのような場面では自分から謝るようになりました。
しかし、グループの違う入所児や新しく同じグループに入ってきたような、子Lにと
って面識の薄い子どもに対しては乱暴な言動が継続してあり、対人関係への不器用さが
課題となりました。
(エ)バランスの取れた生活習慣への変化
担当養育者との間に愛着関係が築けてからは、入眠時には、子Lから職員との触れ合
その1(PDF/1.2MB)(88ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 88ページいを求めるようになりました。
また、担当養育者からの言葉でのやりとりで、スムーズにそれまで行っていた活動か
ら気持ちを切り替え、椅子に座って落ち着いて食事をし、嫌いな物でも職員が応援する
と食べることができるようになりました。
排泄も自立し、月齢相応の落ち着いた生活を送れるようになりました。
ⅲ.まとめ
小規模グループケア事業の有効性を高めるための取り組みとして、子Lの一連の変化
は、①物理的な家庭的養育環境と②職員の養育に向けての養育理念、さらにこれらを機
能させるための、③職員間の情報共有や問題を客観的にとらえ養育に反映させる力、さ
らに④心理療法担当職員を含めたチームワーク等の調和的融合の結果であり、ハードウ
エアの充実とともに、柔軟で有用性の高いソフトウエアの充実こそが小規模グループケ
アの有効性を高めるキーになると思います。
その1(PDF/1.2MB)(89ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 89ページ⑦ 小規模グループケアの養育№2
ⅰ.事例の概要
両親に養育意思はあるものの、母の精神疾患など両親だけで養育を行うには課題があ
り、一時保護委託後に措置入所となりました。子どもにも養育のしにくさを感じること
があったことから、小規模グループケアでの養育を行った事例です。
① 入所時年齢:生後 3 週間
② 退所時年齢:3 歳 10 か月
③ 入所理由:医療ネグレクト、食物アレルギー
④ 家族構成:父、母、 子N
ⅱ.経過
(a)入所までの経緯
母は妊娠中に大量の薬を飲み、何度も救急搬送されています。父も子どもに必要な手
術に同意をしないなど、医療ネグレクトが疑われる状態でした。児相は、28 条による
職権保護も視野に入れて一時保護をしましたが、児童福祉司による説得の結果、両親か
ら措置入所の同意が取れ、乳児院での一時保護委託 3 か月後に措置入所となりました。
(b)両親の状況
母は精神障害を抱えていました。また、父は、子Nが一時保護されたことに対して、
「子どもを取られた」と強く感じており、児相や乳児院に対しては、攻撃的に話される
ことが多くありました。父は、「取られた」と感じている子Nを養育している乳児院へ
の不信感が強いためか、一時保護委託直後から、乳児院に対して様々な要求が出されま
した。面会時にも職員に対しては、父は攻撃的に、母は試すような言動を繰り返してい
ました。
しかし、子どもへの愛情はあり、面会も頻回にあります。
子Nを養育する乳児院との信頼関係を構築し、退所後にも子Nが安全・安心して生活
し成長できる場所が課題でした。その際には、両親の子Nへの愛情が見られたことから、
⑦ 小規模グループケアの養育№2
事例に
学ぶ2
その1(PDF/1.2MB)(90ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 90ページ家庭引取を選択肢の 1 つとして検討することとしていました。それにむけては、両親が
安定した生活を送れることと、子Nに対して適切な医療や養育をすることができること
を見守り、判断することが必要となりました。
(c)子Nの小規模グループでの養育
両親は子Nに対する愛情を持ってはいますが、生活面や交友関係でうまくいかないこ
とがあった後の面会では、子Nに厳しい口調で話しかけたり、抱き方が乱暴になったり
する様子も見られました。子Nは、生後 6 か月頃から、大人がイライラした口調や大き
な声で話すのを聞くと、大泣きしました。また、職員が抱っこをすると、体が強張った
り、泣いたりすることもありました。できる限り、担当養育者を中心に、少人数の職員
が子Nに関わるよう体制を整えましたが、他児の落ち着かない様子や、多くの職員が行
き来する環境の中で、子Nも不安定になって泣き止まないことが多くありました。
そこで、本乳児院において、被虐待児を対象にした小規模グループケアを開始したこ
とを期に、より個別で家庭的なケアを行う為、子Nは小規模グループへ移動しました。
この時、1 歳 4 か月でした。子Nが住み慣れたユニットから移動するにあたり、以下の
4 点に留意しました。
① 子Nと担当養育者は一緒に移動する
② グループの職員は、子Nと比較的関係の良好な職員を選ぶ
③ 現ユニットの職員を中心に、移動に伴う情緒面をフォローする
④ 日中の時間には、他グループの異年齢児との交流の機会を作り、発達を促す(2
歳 4 か月より登室開始)
子N以外の小規模グループケアへ移動する子どもには同様の対応を行いました。
(d)保護者との信頼関係の構築
人とかかわることに強いストレスを感じる両親は、乳児院で対応する職員が変わると
不安定になりました。
そこで、また、子Nの入所時から、両親の子Nへの愛情に共感しながら、乳児院での
様子を伝える際の窓口となってきた家庭支援専門相談員が引き続き面会等の調整をす
ることで、両親が安定して話ができるよう努めました。
また、小規模グループの担当職員が少人数であるため、日常の養育の様子を伝える職
員も限定され、徐々に両親は小規模グループ担当職員に対しても安心して関わることが
できてきたようでした。
乳児院職員からの説明に対し、両親から攻撃的な態度を示されなくなった頃に、家庭
支援専門相談員と小規模グループ担当職員から、子Nの入所理由についても、再度やさ
その1(PDF/1.2MB)(91ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 91ページしい表現で伝え、理解してもらうようにしました。そのうえで、両親の願いである「い
つかはお家に帰る」という目標を共有し、乳児院に入所しながら両親と子Nが穏やかに
生活できる方法を見つけていきたいと説明することを、一貫して心がけました。
その結果、乳児院に対する不信感も薄まり、自分たちの思いや生活の様子を気軽に話
してくれるようになりました。
(e)家庭復帰をめざした試み
(ア)子Nの両親への信頼と、両親の気持ちによりそうこと
「いつかは子Nを連れて帰りたい」という気持ちに寄り添い、家庭復帰に向けた支援
をしました。
両親には、小規模グループケアでの実際の生活を見てもらいながら、子Nの食事の仕
方や抱っこの仕方等を小規模グループケア担当職員と一緒に体験する機会を設けまし
た。また、面会時で子Nの体調が悪いときには、職員とともに病院に付き添ってもらう
ことで、医療的な対応についても自然に身につくよう体験を重ねました。
また、両親との面会の後の子Nの様子について記録をつけることで、子Nの思いやか
かわりの変化を見守りました。当初は、両親が抱っこすると緊張する様子や、両親が激
しい口調になると大泣きして面会後に職員への甘えが強くなることがありました。しか
し、面会の回数を重ね、職員のかかわりによって両親が常に安定して穏やかに子Nにか
かわるようになると、両親への甘えや、両親が離れるのを寂しがったりする様子が見ら
れるようになりました。一方で、両親が情緒不安定であったり、体調がすぐれないとき
には、子Nに対しても乱暴に接することがあったので、子Nは自分への接し方が変わる
ことに戸惑いを感じている様子も見せていました。
(イ)専門職による個別相談
日々の交流の中で現状を把握・共有し、両親の相談内容により専門職が対応しました。
また、今後の外出・外泊・家庭復帰の際、困ったことがあった際の対応や相談先につい
て相談をしました。
・ 保育士による育児相談の支援
・ 看護師による健康相談の支援
・ 栄養士による栄養相談の支援
・ 家庭支援専門相談員による個別相談と指導、家庭訪問
その1(PDF/1.2MB)(92ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 92ページ(ウ)家庭復帰に向けての支援内容
・ 各関係機関との支援体制の調整
・ 子Nの成長と両親の養育能力に見合った交流計画の作成と実施
・ 両親への養育支援の実施
・ 子Nが飲食可能(食物アレルギー)なお菓子などの、買い物実習
・ 生活訓練室を利用した調理実習
(f)両親の心の変化と子Nの反応
入所から 1 年間は、両親も親族も苦しんでいるようで、情緒が不安定になることも多
くあり、乳児院も対応に苦慮しました。また、早く家庭引取をしたいという焦りから、
子Nに緊張や泣きが見られても抱っこしようとしたり、なかなか両親への愛着行動を示
さない子Nに厳しい口調で話しかけることもありました。両親との交流が、子Nにとっ
て嫌な経験になってしまうことのないよう、面会は生活の場である小規模グループの中
で行い、子Nにとって安心できる環境で面会することにしました。また、両親も子Nと
かかわりながら、不安に思ったことや疑問等を、面会中にその場で職員に確認すること
が増えました。
両親は、子Nの乳児院での生活を実際に見て、職員と一緒に子Nにかかわる時間が増
えたことで、乳児院の職員に対して攻撃的な態度を取ることがなくなってきました。母
は積極的に面会時等に育児の相談をしてくれるようになり、いつも厳しい目つきをして
いた父も、たまに職員に対し、冗談を言うようになりました。
ただし、面会時の両親の様子から、イライラが抑えられなかったり、体調がすぐれな
いときがあるようで、そういった時には子Nに乱暴に接してしまうことが時々ありまし
た。両親が帰った後に、子Nが職員に甘えたり、普段できていた日課(着替え、トイレ
等)をしたくなくなってしまう様子が見られました。不安定さを抱える両親と、このま
ま外泊や家庭復帰にむけて早期に進めていくことには、不安がありました。
(g)今後の課題
子Nは、小規模グループの中で、大人(グループ担当職員)や他児との関係性を築き、
職員からの接触を拒否することもほとんどなくなりました。しかし、両親との面会の際
に緊張した様子を見せることもあり、長時間の外泊や家庭での生活に移っていくこと
は、まだ難しいように思われました。
子Nの様子や、両親の不安定さについては、児相の児童福祉司に文書による記録とと
もに伝えていました。
児相と両親との相談等を経て、子Nは 3 歳 10 か月で障害児施設へ措置変更となりま
その1(PDF/1.2MB)(93ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 93ページした。今後、関係機関の見守りの中で、両親とともに子育てを行っていくことが必要で
す。
ⅲ.まとめ
精神疾患を抱える保護者、とくに母の精神疾患を理由とした入所が増加傾向にあり、
乳児院の近年の特徴のひとつでもあります。子どもは育てにくさや関係性のつくりにく
さを持っていたり、発達が緩やかであったりと養育上の課題を多く呈することがありま
す。保護者も病院とつながっており投薬管理などがきちんと行われている場合は、面会
や帰省を医師とも相談しながら定期的に行えたりします。しかし、受診もなく病識もな
い保護者の場合、児相とも関係が悪く、施設も苦情等で苦慮することがあります。
保護者はもとより、子どもの個別課題により細やかに丁寧にかかわるために、小規模
グループケアを利用した事例です。
その1(PDF/1.2MB)(94ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 94ページ2012 年(平成 24 年)10 月に厚生労働省より出された『児童養護施設等の小規模化
及び家庭的養護の推進のために』の中で、小規模グループケアの意義と課題が示されて
います。以下に抜粋します。乳児院入所児の特性や在り方に十分留意しながら小規模化
を進めてくことが重要だと記されています。
『児童養護施設等の小規模化及び家庭的養護の推進のために』
社会保障審議会児童部会社会的養護専門委員会とりまとめ(平成24年 10 月)より抜
粋
≪乳児院≫
1.社会的養護の課題と将来像での位置づけ
・乳児院における小規模化・家庭的養護について理解するためには、乳児院の特性、
役割を正しく理解する必要がある。
・乳児院は、言葉で意思表示できず一人では生きていくこと、生活することができな
い乳幼児の生命を守り養育する施設である。
・乳児院では、病児や障害のある乳幼児の入所が増えており、また、乳児院は一時保
護機能を持ち、アセスメントが十分なされていない段階での緊急対応を行う役割を
持つ。
・さらに、入所児の4分の1は在所期間が1ヶ月未満であり、短期の子育て支援のた
めの預かりや、家庭養護が必要な子どもを里親委託へつなげていく役割を持つ。
・また、24時間365日体制で命を守る施設であり、感染症の蔓延防止や夜間の安
全管理も重要である。
・細心の注意を要する出生0か月の新生児や低体重児の入所もあり、かつ、月齢・年
齢の人数構成は絶えず変動する。行動的で多動な幼児もおり、事故防止の注意が欠
かせない。
・「社会的養護の課題と将来像」では、そのような乳児院の特性と役割を踏まえつつ、
乳児院の養育単位の小規模化を重要な課題としている。乳児院の小規模化に当たっ
ては、上記の乳児院の特性や在り方に十分留意しながら、小規模化を進めていくこ
とが重要である。
コラム:乳児院における小規模化および家庭的養護推進
その1(PDF/1.2MB)(95ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 95ページ2.小規模化の意義
・乳児院の小規模化は、養育単位の小規模化を図り、施設運営指針で社会的養護の原
理として掲げた「家庭的養護と個別化」を行うもので、乳幼児期における発達の保
障を図ろうとするものであり、次のようなメリットがある。
一般家庭に近い生活体験を持ちやすい。
一般家庭に近い生活体験を持ちやすい。
落ち着いた雰囲気で安定した生活リズムといとなみを持ちやすい。
安全な環境で暮らしているという安心感を持たせやすい。
養育担当者との個別的な愛着関係を築きやすい。
分離体験をもつ子どもたちの心を安定させやすい。
子どものニーズに沿ったかかわりをしやすい。
少数の乳幼児と職員との間で穏やかで応答性のある生活をしやすい。
・また、乳児院は、約4割は定員20人以下の小規模なものであるが、定員の大きい
大規模施設もある。施設養護でなければ果たせない役割のために必要な定員数は確
保しつつ、家庭養護を推進して、施設養護の期間をできる限り短期間にしていく必
要があり、乳児院の大規模施設の解消に取り組む意義は大きい。
3.小規模化に当たっての課題
・小規模化に当たってよく挙げられる課題としては、次のようなものがある。これら
の課題に適切に対応するとともに、8で掲げるような、小規模化に対応した運営方
法をとる必要がある。
・1グループの配置職員数が少ないため、グループの職員のみでは、緊急の対応など
が難しいことから、施設全体で、緊急の対応をとれる体制が必要。
・1グループに1人の夜勤の確保は難しいことから、小規模化する場合でも、夜間は
間仕切りを空けたり、子どもを一部屋に集めて複数グループで一緒に就寝させるな
どの運営を可能とすることが必要。
・夜勤者の担当グループが明確になり、夜勤者同士の協働が少なくなるため、連携を
とるための配慮が必要。
・小規模グループケアで、担当養育制を行い、基本的に入所から退所まで一貫した担
当制とするためには、グループ編成を工夫する必要がある。
・新生児は感染症の防止、健康管理や安全管理の上で、十分な配慮が必要。
その1(PDF/1.2MB)(96ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 96ページ⑧ 乳児院入所中の家族支援
ⅰ.事例の概要
乳児院の入所年齢は、おおむね 0~2 歳ですが、本事例は 2 歳を越えて入所となった
事例です。入所依頼は父からの相談です。母が第2子を妊娠中であるが、早産のおそれ
があり、急きょ入院(3 週間ほどの入院加療)、父は仕事で夜が遅く子Oの面倒を見る
ことができないとの理由でした。母の実家も近いので、手伝いの依頼ができるまでの
短期利用の予定でした。
最初は3週間ほど入所し、その後家庭引取になりました。しかし、母の入院が伸びた
こと、母方親族も体調不良で支援が困難とのことで、入所が妥当という判断で再び乳
児院入所となりました。子Oに慣れた環境を提供できることからも、同じ乳児院が受
け入れることになった事例です。
① 入所時年齢:2 歳
② 退所時年齢:3 歳 2 か月
③ 入所理由:次子出産
④ 家族構成:父、母、子O
ⅱ.経過
(a) 入所時の様子
子Oは、家庭で育ち、保育所なども含めて、集団生活の経験のない子どもでした。
父からは、今回の入所は母が入院をするためであり、面会には父が来ることなどを聞
いていました。
入所時、子Oは父に抱っこされて来ました。乳児院は初めて来た場所であり、見慣
れない大人に囲まれて緊張した表情を見せました。生活の場所を案内しながら、グル
ープの子どもたちと顔合わせを行いました。父との別れ際には、子Oは大泣きです。
父も「頑張れよ」と声をかけていました。短期間ということもあり、日曜日に面会に来
ることを約束して別れました。
⑧ 乳児院入所中の家族支援
事例に
学ぶ2
その1(PDF/1.2MB)(97ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 97ページ(b)最初の入所
小規模グループケアで、同年齢の子どもたち3 人が家庭的な生活を行っているグルー
プに入所しました。1 日のスケジュールは、午前中は散歩に出かけたり、午後はお昼寝
の後、夕食までの時間は入浴や遊びを行ったり、寝る前は静かに過ごしたりと、家庭
での生活を意識した少人数での生活です。入所したばかりの子Oにすれば、次々に目
の前に新たなことが提示されるような状況であり、負担感や不安感を感じる中での生
活でした。
養育者は、当初、「ご飯を食べない」「お風呂に入ると泣く」「ずっと泣いている」と
いった表現で、「若干、養育上の課題のある子ども」という見方をしていました。しか
し、よくよく考えれば、家庭で2 歳という年齢であれば、環境が変わってこんな状態に
なることは普通のことなのだと感じるようにもなりました。小規模グループの担当職
員間の話し合いの際も、「1 人でお着替えしたり遊んだりすることは、甘えたり、受け
入れられたりの繰り返しの中で徐々に自立していくもので、むしろ、乳児院の子ども
の方が早く自立を強いられているのかもしれない」と、職員間で改めて乳児院の養育を
考える機会となりました。家庭で愛情豊かに育てられた子どもが、乳児院の生活に対
してどのような反応をするのか、どのような思いを持つのかを見て、想像すること
で、養育を振り返るよい機会となりました。
3 週間、小規模グループでの少人数の同月齢の子どもたちとの生活にも徐々に慣れて
きた頃に、家庭引取となりました。父に抱っこされて笑顔で帰っていきました。
(c)二度目の入所
二度目の入所は、一度目と同じグループに入りましたので、慣れた養育者と子ども
たちに囲まれて、スムーズに乳児院での生活に入っていたようでした。
父の面会は、10 時から 16 時まで親子生活室で過ごしてもらいました。親子生活室
は、お風呂やトイレがあり、入浴や食事、睡眠もできる独立したお部屋です。ここで
は、個室で他の人を気にすることなく過ごすことができます。
父は持参した昼食を、子どもは乳児院の昼食を一緒に食べ、一緒に昼寝をし、楽し
いひと時を過ごしていました。父との面会が終わった後も、お別れが寂しく、父の後
を追って一緒に帰ろうとしたり、姿が見えなくなると泣くことがありました。
子どもにとって、母が入院し家庭から離れて生活することは、計り知れないほどの
負担感だろうと思います。毎日曜日には、父が一日一緒に過ごしてくれるという生活
リズムを退所まで継続して行うようにしました。定期的に、親が面会に来て過ごす時
間がとれることは、子どもの安心感にもつながります。
その1(PDF/1.2MB)(98ページ)
変更前新しく確認した内容です。
変更後 · 98ページ父にしても、乳児院に預けていることで安心して、仕事に励むことができます。保
護者の望む方向性で支援していくことは、2 度目の入所でも大切に取り組みました。そ
の後、母の退院と体調の安定を待ち、面会・外出・外泊の段階を順調に踏み、子Oが 3
歳 2 か月の時に家庭引取となりました。
ⅲ.まとめ
家族に問題がなく「次子出産による母の入院」の間、子育てのお手伝いすなわち家庭
機能を補完することで家庭機能が継続する事例で、乳児院が従来から行ってきた子育
て支援でもあります。家族機能が継続できるように、本事例でも家庭支援専門相談員
は、入所時の説明や入所するお部屋の説明と職員の勤務スタイルを伝えながら、初回
からの面会のあり方を児童福祉司同席のもと、確認しながら行っています。次子出産
という措置理由からも、面会の定期化と父との関係性の重視を基本とし、親子生活室
の活用を提案しました。児相には、面会の様子などを伝えつつ、母の状況や、引き取
り後の家庭の支える基盤について確認を行いながら、進めていきました。次子出産で
あれば、区市町村事業のショートステイの活用も考えられるところですが、その家族
の状況に応じて措置入所も必要です。